通常のX線による放射線治療では、体表面で線量が高く、深いところで線量が低くなるが、一方で深部にも到達するため正常細胞や組織にも損傷を与えてしまう。陽子線、重粒子線は一定の深さで急に線量が高くなるピークがあり、それよりも進まい。エネルギー量をコントロールすることにより、腫瘍の形に合わせた照射を行うことができ、十分な範囲の切除が困難な口腔癌治療には、非常に有望であると考えている。重粒子線の細胞殺傷能力はその生物学的効果比(RBE)が従来の放射線と比べて2-3倍高いことからも、がん治療において大きな効果を発揮することは疑いようのないものである。 一方口腔がんは、その審美的、機能的観点から広範囲の切除が非常に困難であり、外科的手術の侵襲は多大で、咀嚼、嚥下などの生命活動の維持に対する影響のみならず、患者の社会的生活、社会復帰にも影響は極めて甚大である。口腔扁平上皮癌は、外科的手術が困難な部位や機能回復に影響を与える部位での発生も多く、古くから放射線療法も含めた治療が行われてきた。 口腔扁平上皮癌ではEGFRの変異の他、P16遺伝子の不活性化、P53遺伝子の変異などが高頻度に認められる遺伝子変異として報告されている。治療法は、外科的切除が第一選択で、補助的に放射線療法、科学療法や免疫療法が行われている。そこに今回重粒子線による治療の可能性について検討する機会を得た。 今回、我々は重粒子線治療の効果を調べる前段階として、X線治療に抵抗性を示す口腔扁平上皮癌細胞株について特性を調べた。その結果、E-cadherinを過剰発現した口腔扁平上皮癌細胞株では、X-線照射した際の増殖抑制効果に抵抗性を示すことがわかった。現在、放射線医科学研究所のHIMACの照射により、E-cadherinを過剰発現している口腔扁平上皮癌細胞での、RBEがどにのように影響を受けるかを検討中である。
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