研究実績の概要 |
我々は、口腔顎顔面遺伝性疾患患者由来体細胞の初代培養及び初期化の全プロセスを、宿主染色体に遺伝子挿入がないセンダイウイル スベクター(SeVdp)及び当科で開発した完全無血清・フィーダーフリーの培養系を用いて行い、各種疾患特異的iPSCの樹立・長期維持 に成功している。今年度はvon Recklinghausen disease (NF1)患者2名の末梢血リンパ球より、疾患特異的NF1-iPSCsを樹立し、遺伝子診断及び発症機序の解明、さらにNF1-iPSCsの細胞特性を健常人iPSC由来のそれと比較検討した。NGS解析にてNF1-2ではNF1のexon40にCのTへの一塩基変異(NCBI:SNP: rs137854552 C>T)を明らかにし同変異はarginineのstop codonへの置換を示唆した。NF1-1ではNF1に明らかな変異を認めなかったがCEQerの結果17番染色体長腕のNF1領域のread coverageが広範囲にわたり半減していることさらにddPCR解析にてNF1のコピー数が半減していることが判明した。いずれのiPSCsにおいてもNF1蛋白の発現量はWT-iPSCsのそれと比較して約1/2に低下していた。神経分化に伴い, 両NF1-iPSCsでは早期にS-100陽性細胞が出現し, さらにERKリン酸化も維持あるいは上昇傾向を示した。さらに, NF1-1-iPSCはWT-iPSCsに類似した骨分化を示したが, NF1-2-iPSCsでは骨分化が遅延していた。 無血清及び無フィーダー培養系を用いてNF1-iPSCsの樹立及び長期維持に成功した。2症例のNF1間で臨床症状や経過が大きく異なるのは, NF1変異の質的差異を反映している可能性が示唆された。また, 各NF1-iPSCsにおいてもNF1の欠失や変異は維持されており, さらに神経分化や軟骨・骨分化能にも差を示したことから, NF1の分子・細胞レベルでの病態解明や, 疾患モデルとして創薬スクリーニングへの応用や治療法の開発研究に有用であると考えられた。
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