研究実績の概要 |
火傷や外傷、さらには糖尿病患者や、アスピリンなど非ステロイド消炎鎮痛剤の投与による創傷の治癒不全はしばしば生命に関わる重篤な病態につながる。また、超高齢化社会を迎え、寝たきりになることで生じる「褥瘡」が、医療や介護の現場で大きな問題となっていることも考え合わせると軟組織創傷の新たな治療法や薬剤の開発は急務である。 口腔は身体の他の部位に比べ、多様な化学・機械・温度刺激に曝されている。ゆえに粘膜が損なわれ、創ができることも少なくないが、再生能力が高く速やかに治癒し、瘢痕も生じにくいことが知られている。しかし、その理由は明らかとはいえない。 私たちは、口腔上皮や皮膚上皮にTRP(transient receptor potential channel) チャネルというカルシウム透過性チャネル群が機能的に発現していることを見いだし、生理的な機能を明らかにしてきた ( Kido et al., 2003, Shimohira et al., 2009, Wang et al.,2011) 。近年、機械的な刺激が創傷治癒を促進させるとの報告も蓄積されてきている。そこで、口腔上皮に発現する機械刺激センサーとしてTRPチャネルを想定し、その制御による創傷治癒への影響を解明することとした。 口腔上皮では、部位によりTRPチャネルの発現分布に差があることがマウス口腔粘膜の免疫染色により明らかになった。さらに、初代培養口腔上皮細胞におけるスクラッチアッセイでは、TRPV4の制御により差が認められたことから、TRPVチャネルが創傷治癒に関連することを見いだすことができた。
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