皮膚や粘膜への創傷は常に速やかな治癒が望まれている。口腔は常に多様な刺激に暴露され損傷が 生じやすい一方で、高い再生力を持ち、皮膚よりも速やかに治癒し瘢痕が生じにくいことが知られている。私たちは口腔粘膜に常に加わっている機械刺激に着目し、機械刺激により活性化するカルシウム透過性チャネルの活性が口腔上皮の細胞増殖や移動に関与するとの仮説を立てて実験を行った。
創傷治癒に重要な役割を果たす細胞増殖に標的イオンチャネルがどのように関与するのか、を知るため培養細胞を用いた実験を実施した。株化口腔上皮細胞を用い、標的イオンチャネルの活性化を行ったところ、細胞の増殖が抑制された。一方、チャネルの活性化を抑制すると細胞の増殖が活発になり、培養細胞の細胞シートへの傷が早期に修復されることがわかった。また、細胞の移動への影響も調べたところ、標的イオンチャネルの抑制は細胞の移動距離を上昇させることが見出された。これらには、細胞間の接着分子群の関与とともに、細胞骨格を担う、アクチンと非筋ミオシンが関与していることを示すことができた。さらに、イオンチャネルのチャネル活性が抑制された遺伝子改変マウスからの細胞においても、細胞の増殖や細胞の移動が野生型のマウスからの細胞に比較して活性化していることが明らかになった。加えて、マウス口腔粘膜の創傷モデルにおいて、チャネル活性が抑制された遺伝子改変マウスでは創傷治癒が促進していた。
よって、低浸透圧、伸展刺激などで活性化されるイオンチャネル制御は新たな口腔の創の治癒促進の標的となる可能性が示唆される。
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