研究課題/領域番号 |
16K15829
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
岡本 正人 北里大学, 薬学部, 特任教授 (10243718)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 癌免疫療法 / 癌ワクチン / CDCA5 |
研究実績の概要 |
進行期口腔癌の予後は極めて不良である。近年免疫療法が注目されており、特に抗PD-1抗体が頭頸部癌においても期待されているが、その奏効率は24.8%にすぎず、さらに治療効果を上げるためには癌抗原特異的免疫反応を賦活する治療法が必要である事が明らかとなった。癌抗原特異的免疫療法として癌ワクチンや癌抗原特異的リンパ球療法等が期待されているが、口腔癌においては未だ満足できる成果はない。特異的免疫療法で効果を得る為には治療標的として適切な抗原を選択する事が必要である。 癌遺伝子CDCA5は、口腔扁平上皮癌において強発現し正常口腔粘膜上皮にはほとんど発現していない事から、癌ワクチンの標的抗原になる可能性が強く示唆された。我々は、さらに症例数を増やし免疫組織化学染色法にて、口腔扁平上皮癌ならびに正常口腔粘膜上皮におけるCDCA5タンパクの発現を解析するとともに、CDCA5遺伝子発現も解析し上記と同様の結果を得た。 我々は、次にCDCA5タンパクのアミノ酸配列より、HLA-A*2402ならびにHLA-A*0201拘束性の配列を有する8-10merのペプチドならびにHLA Class II分子に結合する配列を有する15-20merのペプチドを数パターン作成し、細胞傷害製T細胞(CTL)ならびにヘルパーT細胞を強く誘導する配列がin vitro実験にて、ほぼ明らかになり、現在同配列ペプチドのCTL誘導能について追加実験にて確認中である。同時に、癌ワクチンの「first in human」の原則に従って、GMP/GCP基準に則って、医療安全管理、衛生管理、情報管理、製造管理、品質管理等に関する様々な基準書ならびに手順書等を作製し、進行・再発口腔扁平上皮癌患者を対象とした第I相臨床試験の準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定通り、口腔扁平上皮癌ならびに正常口腔粘膜上皮におけるCDCA5タンパクのみならずCDCA5遺伝子の発現を解析し、やはり、CDCA5が、口腔扁平上皮癌で強発現し、正常上皮ではほとんど発現していない事を明らかにした。さらに、CDCA5高度発現口腔扁平上皮癌患者は、低発現患者と比較して予後不良であることも示し、CDCA5が治療標的として有効である可能性がさらに高まった。 また、予定通り、in vitro実験にてCDCA5タンパクのアミノ酸配列より、CTLならびにヘルパーT細胞を強く誘導する配列をほぼ確認できた。 この事から、癌ワクチンの「first in human」の原則に従って、進行・再発口腔扁平上皮癌患者を対象とした第I相臨床試験に進めるが、平成29年4月から現在所属する北里大学から大阪大学への移動が決定したため、倫理委員会、IRB等の承認は、4月以降、新所属先で行う事となり予定よりは多少遅れる事になった。 上記ペプチドで誘導されたCTLあるいはヘルパーT細胞から、T細胞受容体遺伝子のクローニングについてはほぼ予定通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
CTL/Th1誘導能が確認されたCDCA5ペプチド(可能であればHLA A*2402, A*0201およびHLA Class II拘束性ペプチドを少なくとも1個づつ)について、少なくとも研究期間中に第I相臨床試験開始し、安全性と有効性を検討する。ここで、最近の報告から造血系腫瘍等の一部の悪性腫瘍を除いて、ペプチドワクチンのみで臨床効果を得ることは困難な事、我々のグループでは既に樹状細胞ワクチンの臨床試験・治験の経験が豊富であり安全性に問題は無い事、そして、やはりペプチド単独よりもペプチドパルス樹状細胞ワクチンが臨床効果が見込めると考えられる事から、ペプチドパルス樹状細胞ワクチンとして投与する事とする。 CTLあるいはヘルパーT細胞から単離されたT細胞受容体遺伝子をレトロウイルスベクターに組み込む。in vitro及びヒト口腔扁平上皮癌細胞株を用いたxenograftマウスモデルにて抗腫瘍効果を検討し、上記の如くGMP/GCP基準に従って調整ならびに必要書類作製し、TCR遺伝子導入リンパ球療法の臨床応用に向けて準備を整える。T細胞受容体遺伝子導入リンパ球輸注療法は国内でも既に臨床応用が行われており我々の研究室でノウハウは蓄積されている
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に購入した物品は、ほぼペプチドの合成のみであった。その理由は、細胞傷害性T細胞(CTL)やヘルパーT細胞の誘導実験に用いる試薬は、過去に他のプロジェクトで使用したELISPOTやHLA-Tetramer assay kitの残りを用いたためである。さらに、免疫染色に用いた抗体も過去に用いたものの残を使用した。T細胞受容体遺伝子のクローニングも新たに購入すべき試薬は無かった。しかしながら、既にこれらの試薬、キット類は無くなっており2年目に入って直ぐに注文しなければならない。 初年度からGMPグレードのぺプチドを注文して臨床試験に備える予定であったが、所属変更に伴って新しい所属先にて注文する事にしたため初年度は使わなかった。臨床で使用する量のGMPグレードのペプチドや患者検体の免疫モニタリングに使用する試薬は非常に高価であるため、これらを購入するために、初年度はなるべく支出を控えた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の如く初年度に使い切ったCTLやヘルパーT細胞の誘導実験に用いる試薬類ならびに免疫染色用抗体等は早急に購入しなければならない。T細胞受容体遺伝子導入リンパ球作製のための試薬ならびに実験動物等の購入。 臨床試験のためのGMPグレードの抗原ぺプチドを臨床使用に必要な量、すなわちかなり大量に購入しなければならない。患者検体の免疫モニタリングに使用する試薬類、ELISPOT、HLA-Tetramer assay kit、FACS解析に用いる抗体類、ELISA kit、PCR用primerなど。
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