研究課題
胎生期における顎顔面の形成は複雑かつ精巧に行われ、その発生過程の不具合は口唇口蓋裂等の顎顔面形成不全の原因となる。同疾患は多因子性疾患であり、胎生期における遺伝的要因と環境的要因に大きな影響を受けて発病する事が知られている。我々は既にレチノイン酸生成に必要不可欠なRdh10遺伝子に変異を持つマウスは上顎骨において後鼻孔閉鎖と共に口唇口蓋裂を示す事を見出している。この事はレチノイン酸欠乏が顎顔面の発生過程において異所性骨形成を誘導し、口唇口蓋裂を引き起こす可能性を強く示唆するものである。一方、アルコールとレチノイン酸シグナルは相互作用を起こす事が知られており、二つを同時に作用させた個体ではそれぞれ単独で作用させた個体と異なる表現形が出るという報告が存在する。そこで本研究ではRdh10の変異と環境的要因であるアルコールの相互作用が後鼻孔閉鎖や口唇口蓋裂を含む顎顔面形成不全の発生においてどの様な役割を解明することを目的として行った。本年度は妊娠マウスにエタノールを作用させる事によりRdh10変異マウスの口蓋裂の症状が悪化する事を見出した。この事はRAシグナルとエタノールが相互作用を起こして症状を悪化させている証拠であり、RAシグナルに問題がある場合は特にエタノールの暴露に注意する必要がある事を示している。本年度は更にRdh10をノックアウトする時期やエタノールを投与する時期の条件を変えて胎生期のどのステージにおいて、これらの遺伝的要因(Rdh10)や環境的要因(エタノール)が顎顔面形成不全の病因に影響を及ぼすかを詳細に解析した。その結果、胎生8.5日以前にRdh10の機能阻害を行った個体や胎生13.5日辺りにエタノール投与を行った個体についてはより強い表現型を示した。これらの事は遺伝的要因、環境的要因が胎生時期特異的に重要な時期が存在する事を示すものである。
3: やや遅れている
本年度までに顎顔面形成不全において胎生時期特異的なRdh10の欠損やアルコールへの暴露が顎顔面形成不全の症状を悪化させる事を見出した。依然として組織学的な解析や分子生物学的な解析が必要である。
今後は現在までに同定した胎生時期特異的なRdh10の欠損やアルコールへの暴露が顎顔面形成不全に及ぼす影響を組織学的、分子生物学的に解析する予定である。具体的には口唇口蓋裂の原因遺伝子等の発現パターンを様々な時期にRdh10をノックアウトしたものやエタノールを投与した個体を用いて行う。それらの情報を元に同マウスで発生する口唇口蓋裂の分子基盤を予想し、それらの分子をターゲットとする薬剤を用いて表現形のレスキューを試みる。
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