胎生期における顎顔面の形成は複雑かつ精巧に行われ、その発生過程の不具合は口唇口蓋裂等の顎顔面形成不全の原因となる。同疾患は多因子性疾患であり、胎生期における遺伝的要因と環境的要因に大きな影響を受けて発病する事が知られている。本年度においては顎顔面形成不全の遺伝的要因の探求の一環として家族性に頭蓋骨早期癒合症、多数歯アンキローシス、副甲状腺機能不全を呈する患者のエキソーム解析を行った。その結果、原因遺伝子としてPTHシグナルに関連する新規遺伝子変異を同定した。今後は同新規遺伝子変異の機能解析を細胞株や動物モデルを用いて行い、同疾患の病態をより詳細に解析する予定である。また昨年度において作製したDLC1変異マウスについても解析を進めており、同遺伝子変異マウスにエタノールを作用させると症状が悪化する初期データを取得した。今後はDLC1変異とエタノールの相互作用についても解析を進める予定である。また顎顔面形成不全の原因となる環境要因の探索ではマウスを用いて胎生初期(E8.5)にレチノイン酸を投与する事により高い確率で口蓋裂を引き起こす事を見出した。口蓋裂を引き起こす環境要因としてレチノイン酸は既に様々な研究がなされているが妊娠初期におけるメカニズムは不明な点が多く、この結果は口蓋裂における新たな病因解明に貢献する物である。更にこれらの口蓋裂の発生頻度はShhシグナルのアゴニストを用いる事により減少することも見出した。これらの知見は新規のものであり口蓋裂の病態解明に大きく貢献するものと考えられる。
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