研究実績の概要 |
歯周病に罹患した歯周ポケットでは、歯周ポケット細菌叢の中の細菌の生体への侵入を防ぐために好中球による細菌の貪食が盛んに行われている。好中球による防御は貪食作用だけではなく、細胞外トラップ(以下、NETs)により歯周病原細菌の侵入を阻止している。この防御機構は、歯周病態が進行する前、すなわち臨床的に健康な歯肉溝においてもホメオスタシスを維持するために機能していると考えられる。 歯周組織で好中球NETsが生じるトリガーは口腔細菌で、とりわけ歯周病の進行により増加するグラム陰性菌との関係を検索した。好中球様に分化誘導の可能なヒト前骨髄球細胞株HL-60と、血液より採取したヒト好中球を用いて、NETs誘導の条件を検討した。HL-60はAll-Trans Retinoic Acidにより好中球様に分化を誘導した。NETsはSYTO Greenによる拡散物質の核外や細胞質外への逸出を確認した上で、シトルリン化ヒストンH4に対する免疫染色で確認をした。HL-60ではツニカマイシンで濃度依存的(0, 5, 10, 20μg/ml)に、ヒト好中球ではPMAで濃度依存的(0, 10, 20, 50nM)にNETsが誘導された。さらに、HL-60では歯周病原菌の一つであるグラム陰性桿菌Porphyromonas gingivalisのLPS(0, 1, 2, 5μg/ml)によりNETsが誘導された。しかし、LPSによる刺激では濃度依存性は確認されなかった。一方で、NETs誘導率(発生率)の算定法に改善の余地がある。NETsによる網状構造が広がり細胞数の測定が容易でないためである。今後はシトルリン化酵素(PAD4)の活性化や抗シトルリン化ペプチドの測定によるNETs形成の定量化を進める。
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