フッ化物は歯の強化に貢献するだけではなく、微生物の生存に必須のエノラーゼを強力に阻害する抗菌物質でもある。近年、微生物のフッ化物耐性に寄与する2種類のフッ化物輸送タンパク(EricF、CrcB)が報告された。しかしながら、データベース検索では、代表的な歯周病関連細菌であるPorphyromonas gingivalis(P. g菌)には前記2種類のフッ化物輸送タンパクは存在しない。 最終年度前までに、EricFと近縁の塩化物イオンチャネルをコードする遺伝子に加えて、CrcBに共通に保存されているアミノ酸配列(GFCGGLTTFSTFSAE)と相同な配列を含むP. g菌のタンパク質をコードする遺伝子のうち3つの遺伝子、計4つの遺伝子で、フッ化物耐性遺伝子を破壊した大腸菌に対して形質転換したが、フッ化物耐性が回復しないことを明らかにしていた。 最終年度は引き続き、BLAST検索のalignment scoresを参考に、機能未知のP. g菌のタンパク質をコードする15遺伝子に焦点を当て、同様にフッ化物耐性遺伝子破壊大腸菌に対して形質転換をおこなった。しかしながら、その全ての遺伝子の形質転換でフッ化物耐性の回復には至らず、フッ化物耐性遺伝子ではないと結論づけた。 今後の研究の展開として、非常に高いフッ化物耐性が報告された、Enterobacter cloacae菌に存在する5つのフッ化物耐性関連遺伝子(これらの遺伝子は直接フッ化物イオンを輸送するわけではないが)のうち、3つの遺伝子がP. g菌に存在する。これら遺伝子の近傍遺伝子に焦点を当てる予定である。 一方、P. g菌の遺伝子を破壊する過程で、必要な酵素反応がpolymerase chain reactionのみの、従来法と比較して効率的な遺伝子破壊法を開発したので、その方法を国際学術誌で報告した。
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