本研究の目的は、文化を考慮した個別的な看護ケアの提供を目指し、日本における「異文化を背景にもつ患者への関わり」の概念モデルを創出することであ る。本研究はRodgers(1993)の概念分析とShwartz-Barcott&Kim(1986)の概念開発プロセスの考え方に基づいて進めた。昨年度、これまでの成果をふまえて創出した概念モデルについて国際学会で発表を行った。今年度は、創出した 概念モデルのコアである【個々の文化的価値観への注目と配慮】について、この概念モデルのコアの背景にある日本人看護師の感情に着目し、批判的思考尺度(平見,楠見,2004)、一般感情尺度(小川ら,2000)、感情労働者尺度(荻野,瀧ヶ崎,稲木,2004)を用いて行った調査について分析し、外国人患者への看護に対して日本人看護師がどのような感情体験をしているかを明らかにした。その結果、日本人看護師が外国人患者への看護を困難として捉えている背景には、肯定的感情よりも否定的な感情が存在していることが明らかになった。「否定的感情」はPOMSの下位尺度の「緊張-不安」「抑うつ」「敵意-怒り」「混乱」との間に有意な相関があるとされていることから、外国人患者への看護の背景にはそれらに近い感情が存在している可能性があると推察された。しかし、看護職のバーンアウトやストレス反応と関連の深い感情労働尺度や自由記述の結果からは、日本人看護師は、緊張や不安といった感情を抱きながらも、患者を良く観察し、理解しようと努めていることが浮き彫りとなった。多文化が共生する社会に不慣れな日本の看護師が、対象者個々の文化が異なることを前提として受容できるような教育の必要性が示唆された。本研究結果は2020年度国際学会にて発表予定である。
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