我が国の看護は大学教育がなされているが系統的にまとめられた学問史を持たない。そこで本研究では、日本の看護学の歴史の構成要素となるイベントを体験してきた先人の直接語る言葉を収集し、看護の学問史をまとめることを目的とした。看護における大学教育の黎明期に看護教育に携わった、または教育を受けた人々32人にインタビューを行った。 看護の学問史をまとめるにあたり「看護は学問か」いう問いに対して「看護は学問ではない」、「学問ではあるが特殊な学問である」などの様々な意見があった。学問としては発展途上だとした人は、学士、修士、博士の各教育課程で、それぞれが何を教えるのかということが明確になっていないことをその理由としていた。また看護が学問的根拠に立って実践されるべき性質の学問であるとしたら、対象となる人間をどう支援するかということに関わる学問だといえるのではないか、とも語られている。 また看護理論では、海外から入ってきたものを日本語に翻訳された時点で完結とみなす気風があり、日本文化の中でそれらがどのように受け入れられるか、実際の看護の現場に適用できるかなどの議論や検証が積極的になされてこなかったという語りもあった。看護理論には諸理論に対する対立理論やそれらにかかわる学派の形成などがみられないが、それはなぜかという問いには、看護は純粋理論ではなく、生きるという現象の中で関わっている学問とすれば、対立理論という形にはならないのではないかという語りもあった。 戦後70年を迎え、看護のいわゆる戦後第一世代の研究者達が亡くなっていくことが懸念される中、その人々の語る言葉を収集することは急務でありかつ重要である。看護学のための新しい情報が学問史形成の観点から集められることは、日本の看護系大学が将来歩むべき道の一指標になる可能性があり、看護学の今後の発展に貢献するであろう。
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