本研究は、生活習慣を含む患者固有の課題に着目し、術後誤嚥性肺炎発症に関連する術前の口腔内状態や生活習慣上の口腔関連要因を明らかにすることを目的とした。 研究実施計画として、術前から入院中の術後に調査を行うことを希望していた。しかし、病院倫理審査にかなりの時間を要し、さらに新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う施設の対策において調査が進まなかった。 調査は2事例であった。1事例目は胃がんの80歳代男性、術前の口腔内乾燥状態は正常、細菌数は舌表面3.85×107、唾液1.00×105未満、歯表面1.96×107、舌苔は認められなかった。日常の口腔清掃状況は、歯磨き回数2回、歯科医院の定期的な口腔管理は受けておらず、修復歯3歯で齲蝕なし、合併症は起こらず術後8日目に退院した。退院後の口腔内乾燥状態は正常、細菌数は舌表面が3.55×107、唾液1.00×105未満、歯表面が1.33×107、舌苔は認められなかった。2事例目は大動脈弁閉鎖不全症で70歳代の男性、術前の口腔内乾燥状態は正常、細菌数は舌表面が8.04×106、唾液が1.00×105未満、歯表面が1.32×107、舌苔は認められなかった。日常の口腔清掃状況は、歯磨き回数が2回、歯科医院による定期的な口腔管理は2か月に1回の受診であり、修復歯が20歯で齲蝕なしであった。術後は不整脈の合併症により再手術となった。 2事例を比較すると生活習慣や口腔内の細菌数、食生活の違いは認められず、定期的に歯科医院で口腔管理を受けた対象者に合併症が起こった。また、2事例とも入院前の齲蝕はなく、修復歯数が多い対象に合併症が起こった。 2事例は原疾患および治療が異なるため、今後調査数を増やした検討が必要であるが、修復歯の数と合併症との関連が明らかとなれば、予防歯科の効果が期待できると考える。今後は、乳幼児期からの歯科検診等の事業の充実が重要である。
|