本研究の目的は,アクションリサーチという手法を用い,研究者と臨床実践者とが協働することで,認知症高齢者への自己決定支援に対する意識の高まり・ケアの変化を目指すことである。 2017年度までの研究で明らかになったことは①認知症高齢者に対する看護・介護スタッフによる日常生活における継続的な自己決定支援介入が,認知症高齢者の前頭葉機能,精神機能,生活の質を有意に向上させる②支援する側のスタッフにも,認知症高齢者に対する苛立ちなどのネガティブな感情表現の低下傾向がみられる,であった。明らかになった課題は,①多忙な日常業務の中での自己決定支援の難しさ②明確な意思を示されない方もおられる中での支援継続の困難さ,であった。 2018年度からは,A病院の認知症治療病棟の看護スタッフとの共同研究を開始した。共同研究者である看護師長・看護主任との話し合い,研究者の病棟研修を経て,課題解決に向けた取り組みとして,定期的な学修会の実施(月に1回20分程度で,認知症ケアについてのミニ講義,事例検討によるケアの振り返り),学修会6回実施毎の質問紙調査による取り組みの評価を行うこととした。2018年11月から学修会を開始し,2020年1月までに計10回の学修会を実施した。学修会の感想は「他のスタッフの思い・意見を知れる」「ケアの選択肢が増える」などであった。取り組み開始前と学修会6回実施後の変化としては①自己決定支援実施の変化:「よくある・たまにある」70%から80%に増加②道徳的感受性の変化:道徳的感受性質問紙 下位項目「道徳的責任感」の上昇(7.6点から8.5点)③病棟,自分自身の変化:病棟の変化有70%,自分自身の変化有70% であった。以上のことから,学修会を通して日常のケアを振り返り,共有する場を設定することが,自己決定支援に対するスタッフの意識の高まりやケアの変化に繋がることが示唆された。
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