研究実績の概要 |
最終年度はこれまでに得られた統計量頑健化の手法を応用し、複数の時系列間の因果性検定手法を構成した。経済時系列解析の分野では、2つの異なる時系列間に因果的な関係があるか否かに興味がある場合が多い。そこでAkashi, Taniguchi, Monti (2020)では周波数領域・時間領域双方において、無限分散過程に対する因果性検定問題を考えた。特に、時間領域ではAkashi (2017)のSW-GEL統計量を用いた因果性指標の検定統計量を構成した。時間領域の場合は、モデルは有限次数のARモデルである必要があるが、SW法とGEL法によって漸近的にカイ自乗分布する統計量が構成でき、実行可能な検定方式が構成された。当該結果は、実経済データの特性を捉えつつ無限分散性の影響を制御し、実行可能な因果性検定方式を構成した点でインパクトあるものである。 本研究課題全体を通して、無限分散時系列モデルに対する基礎的な結果の導出および多岐にわたる応用問題への拡張を行った。(1)無限分散誤差項を持つARMAモデルに関する一般の線形仮説検定について、統計量頑健化の手法の一つである自己加重法を用いて一般化経験尤度統計量を頑健化し、誤差分布に依存しない頑健な漸近分布を持つ検定統計量を構成した。また長期記憶性をもつ時系列回帰モデルに対して、自己基準化統計量による頑健な信頼領域の構成を行った。(2)無限分散モデルに対する変化点検定統計量を構成し、頑健な変化点検出手法を構成した。特に本論文ではARモデルの係数の変化も考慮した仮説を考え、古典的な結果を拡張した。(3)モデル誤差項の従属性検定に用いられてきたPortmanteau検定を一般化し、一般の尤度に基づく検定統計量の漸近分布を導出した。(4)時系列間の因果性の有無の検定において、モデルを無限分散過程に拡張し、頑健な因果性検定手法を構成した。
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