2018年度は最新の研究動向を考慮し研究の方向性の見直しを図った.本研究の開始以降に類似のアプローチによりプログラムの性能改善を図った事例がいくつか報告されており,本研究の主対象であった実装・評価の観点では研究の余地が限られると考えた.そこで短尺形式の具体的な活用事例を模索し,一つの応用例として高精度内積・行列積計算手法の一つである尾崎スキーム[Ozaki et al. 2012]において,計算に必要な中間データの格納における短尺形式の適用を検討した.この事例では最終的に,固定小数点的な方法で64ビット浮動小数点数を32ビット整数型に格納し,メモリ律速な処理における性能向上が得られることを示した[椋木ら 2018]. 一方で,短尺形式の適用にあたり必要なビット数をシステマチックに特定する方法が求められている.そこでその手法の検討を開始し,区間演算に基づく精度保証計算手法,Stochastic Arithmeticを用いた手法の活用を検討するに至った.これらの方法により浮動小数点演算結果における有効ビット長の特定が可能となり,短尺形式の必要ビット数の裏付けが可能となることが期待される.具体的な研究はこれからであるが,これまでに該当分野の研究者と議論を行った.今後は2019-2021年度の科研費若手課題「超並列計算環境のための高精度かつ再現性のある行列計算ライブラリの開発」(#19K20286)に研究を引き継ぐこととする. 総じて,本研究期間内に発表できた具体的研究成果はやや乏しいと言わざるを得ないが,着想自体の妥当性は確認され,本研究においても評価・応用例を示せた点,そして今後の研究に発展する知見と議論が蓄積できたという点において,本研究の意義があったと結論付ける.
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