耐量子計算機暗号の有力候補の一つである多変数多項式暗号の安全性は,多変数多項式の求解問題(MQ問題)の困難性を根拠にしており,その安全性評価の研究は,これまでMQ問題を直接計算するグレブナ基底攻撃などの攻撃手法に主眼が置かれていた。近年,多項式写像を線形変換と非線形変換の合成の形に分解する研究が発表され始めている。本研究課題は,多変数多項式暗号の安全性評価を目的として,上記の既存結果の流れを汲む新たな攻撃手法として,MQ問題を直接計算するのではなく,多項式自己同型写像の逆写像を計算する攻撃としてTame分解アルゴリズムを考察し,多変数多項式暗号の新たな安全性評価指標の確立を目指している。
2018年度は,有限次Galois拡大K/k(拡大次数m)に対し,K上のn変数多項式同型を,k上のmn変数多項式同型に変形することで,与えられたK上のtame automorphismに対し,K上のアフィン自己同型と基本自己同型の合成の形に分解する数学計算問題であるTame automorphism Decomposition Problem(TDP)を,k上のTDPに変換可能であることを証明した。上記の系として,一般の有限体KにおけるTDPが,その素体上のTDPに変換可能であることを明らかにした。本結果については,国内研究集会で発表を行うとともに,海外学術論文誌に投稿するために論文を準備中である。また,有限体上の順部分群の生成元について考察を行い,標数0の場合に成立するDerksenの定理は,標数2の素体の場合には成立しないことを証明した。本結果については,国内研究集会で発表を行うとともに,海外学術論文誌(Beitrage zur Algebra und Geometrie / Contributions to Algebra and Geometry)に投稿し,採録された。
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