本研究では,信頼できる機関(TTP: Trusted Third Party)を仮定しない「空間統計データ構築技術」の研究を推進している.この技術は,各ユーザの位置情報にノイズ付与などの加工を施すメカニズムと,大量の加工済み位置情報から元の位置情報分布を推定する分布推定法から構成される.前者のメカニズムについては,局所型差分プライバシー(Local Differential Privacy)を満たすrandomized responseや二次元ラプラスメカニズムなどが提案されており,後者の分布推定法については,逆行列法や反復ベイズ法(Expectation-Maximization reconstruction法)などが提案されている.
平成30年度では,以下の成果を上げた. (1) 分布推定法として最も有望な従来手法である反復ベイズ法の分布推定誤差を,Rilstoneらの理論に基づいて補正する手法をプライバシー分野のトップ国際会議兼国際誌PETS/PoPETs2018で発表した.また,PWS勉強会(PWS Seminar 2018)にて本内容に関する招待講演を行った. (2) ノイズ加工メカニズムstate-of-the-artである二次元ラプラスメカニズムとOptimal Geo-indistinguishability (OptQL) メカニズムが持つ匿名性を実験的に評価し,OptQLの方が匿名性を達成しやすいことを示し,国際会議ISITA2018で発表した. (3) トレース(移動履歴)に対する再識別攻撃を行うアプローチとして,テンソル分解に基づく再識別攻撃が,少量の学習データで特に有効なアプローチとして知られている.このアプローチの精度を上回る新しい再識別攻撃の方法を確立し,国際会議ISITA2018で発表した.
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