研究課題/領域番号 |
16K16071
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 好幸 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (00548753)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 知覚心理学 / 多感覚統合 / 感覚運動統合 / ベイズモデル |
研究実績の概要 |
本研究は,多感覚情報の脳内統合機構を,心理実験及び数理モデルの融合的研究により解明することを目的としている.そのために,まずは感覚情報が脳内でいつ統合されるのか,また何が推定されているのかに関する研究に重点を置く. 本年度においては,「いつ」と「何が」を同時に研究可能な実験系の候補として,感覚運動統合に関する研究を行った.具体的には,時間的に精密な運動として例えば両手を同時に動かすといった運動があるが,このような運動がどのようにして生成されるのか,その際に感覚フィードバックがどの程度重要になるのかを解明するべく実験を行った.実験の結果,両手を同時に動かすタスクにおいてはおおよそ10msの高い精度で同時性を達成できることを示した.そして,この運動時間精度と感覚フィードバックとの関連性を調べるため,聴覚および触覚の左右弁別時間域を計測して,運動の精度との相関を見た.その結果は相関がみられず,一見すると感覚を用いた修正を行っていないという結果が得られた. さらに,両手の同時運動タスクではなく手と足の同時運動タスクを行った.足の運動は手の運動に比べて,運動・感覚情報の神経伝達に時間差が加わる.手足運動タスクにより,同時運動の際には,時間差のある運動指令や感覚情報のうちどれを同時にするように運動がなされているのかを分離することができる.実験の結果,運動の結果としての感覚フィードバックが脳に到達するタイミングの時間差をベースにして同時性を判断していることを示唆する結果が得られた.これは時間的な精密さが必要なタスクにおいて,何の情報がいつ統合されるのかの一例を示すと共に,そのような研究するための研究手法として重要な意義を持っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては,「いつ」と「何が」を同時に研究しうる実験系に関する研究を遂行した.その結果として,時間的に非常に精密なタスクにおいては運動精度と感覚精度に特に相関がないこと,しかし神経伝達の時間差が重要になる場合には感覚フィードバックのタイミングが重要であることなどの重要な示唆を得た.さらにこのタスクは学習としての側面も持っている.理論研究に関してはまだ十分に進展していないものの,実験研究面で大きな成果があり,国際会議においても発表を行うなどの進展があるため,この評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画においては,多感覚統合のメカニズムの解明を目指し,特に感覚統合の時間的特性,推定としての情報統合において何が推定されているのか,感覚統合において何がどのように学習されるのか,という3つの観点から研究を行うものである. 本年度の研究では,時間的に非常に精密なタスクにおいては運動精度と感覚精度に特に相関がないこと,しかし神経伝達の時間差が重要になる場合には感覚フィードバックのタイミングが重要であることなどの重要な示唆を得た.これは一見すると矛盾する結果であるが,理論的にこれがどう説明しうるかを研究することで,脳内情報統合のメカニズムに関する研究をさらにおしすすめる.さらにこのタスクは,感覚運動統合タスクであると同時に,それを繰り返すことでどのように運動が変化していくかも同時に解析可能なタスクとなっている.学習に関しても理論・実験両面からの研究をすすめていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関の移籍により,研究実施環境が変化したため.新しい環境に合わせ,適切な実験・解析機器,および学会発表費などに使用する予定である.
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