研究課題
眼前の物体が動き出したとき、我々はそれに対して無意識的・自動的に注意を向け、何が起こったのかを分析しようとする。視覚系は環境の見えの差異を検出する仕組みを備え、環境の変化という事態に対処していると考えられる。一方、見えの変化は自己運動によっても起こる。自分が動いた結果としての見えの変化は環境そのものの変化とは区別され、分析対象から外さねばならない。視覚系は身体運動から視覚像の何らかの変化を予測し、その予測に合致する見えに対しては不必要な分析を行わないようにしていると考えられる。申請者は、視環境の持つ統計構造が、視覚系が予測すべき情報であると考え、その統計構造とはどのようなものが該当しうるか、そして視覚像の変化を予測する際に統計構造が比較情報として実際に用いられるのかを調べるのが当初の目的であった。しかしながら、視覚統計構造が自己運動に伴いどのように予測されるのかを直接測定する前に、そもそもヒトが予測すべき統計構造とはどのようなものかを特定しておく必要がある。そこでより基礎的な観点から、ヒトの視知覚において処理されうる統計構造の性質を明らかにすることに注力した。報告者は視覚特徴の間に存在する量的な共変関係に着目し、ヒトが位置情報と共変する方位やサイズといった情報に高い感度を持つことを明らかにした。また、共変関係の知覚がこれまで知られている平均知覚によるものではないこと、および選択的注意という認知的処理資源を必ずしも要求しないことを示唆する結果を得た。特に後者の知見は、共変関係が自己運動下で予測されうる統計構造として妥当な候補であることを意味するものである。研究期間内で当初予定していた、自己運動下での予測を体系的に検討するまでは至らなかったものの、明らかにされたことは学術的に意義深いものである。今後予測実験を行うことで、行動するヒトのダイナミックな知覚の理論的理解に貢献しうる。
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Attention, Perception, & Psychophysics
巻: 81 ページ: 420~432
https://doi.org/10.3758/s13414-018-1608-6