研究実績の概要 |
視野内(網膜像)の物体の動きは自らの視線の動きでも生じるが,外界を実際に物体が動く場合のみ人はそう感じる.こうした,網膜 像運動から自らの眼球運動で生じた成分を差し引くことで真の物体運動を検出する仕組みが,2次元(網膜平面)方向の場合で明らかになりつつある.本研究では,未だ明らかでない奥行き方向での,眼球運動に依らない物体運動の視覚処理解明を目的とする.本年度では,これまでに実施したfMRI実験により明らかになった奥行き方向の物体運動を推定する脳内処理の知見を論文化するための作業を進めた.具体的には,(1)これまでの解析に加えて新たに視覚野V6を被験者毎に同定し関心領域解析を再び実施した.結果は前回同様,眼球運動によらず物体運動に選択的に応答を示した領野はV3AとhMT+であり,とりわけ網膜運動応答と比較して物体運動応答が有意に高い応答を示した領野はV3Aのみであった.(2)追加解析の結果に加えて文献調査を実施し,本研究が明らかにした知見の新規性と重要性を明確にした.両眼視差に基づく奥行き運動一般についてはhMT+野が応答を示すことが知られているが,眼球運動を伴う場合については報告されていない.一方で,網膜平面上での物体運動についてはV3AとV6が固有の応答を示すことが報告されているが,奥行き方向に関しては調べられていない.従って,奥行運動の場合において外界で実際に物体が運動して生じた神経応答を単なる網膜像上の運動と区別して, これをV3A野において同定した今回の結果は,物体奥行き運動の神経メカニズム解明にとって重要かつ新規な結果であることを示した.(3)上記の成果に基づく論文発表に向けた作業を開始しこれを進めた.
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