研究課題/領域番号 |
16K16103
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
小林 まおり 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 研究員 (90451632)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 実在感 / 臨場感 / 音場再現 / パーソナルスペース |
研究実績の概要 |
近年,バーチャルリアリティ技術の発展に伴い,仮想空間における他者の存在感をも伝える技術開発が進めれている。従来の研究で障害物知覚における聴覚の寄与が報告されていることから,聴覚が他者の実体を知覚するうえでも有用な働きをすると考えられる。しかし,そのメカニズムや手がかりとなる音響情報については不明である。そこで本研究では,近距離の他者に対する不快感(パーソナルスペースの侵害)に着目し,音響情報の物理的分析,心理物理学的手法,生理学的方法を組み合わせ,聴覚におけるヒトの実体を知覚するメカニズムについて明らかにすることを目的とする。このため1.実体知覚における聴覚系の寄与の解明,2. 実体知覚の手がかりとなる音響情報の解明,3. 実体知覚の処理レベルの推定,という研究項目を設定して研究を進める予定である。 研究計画の初年度である28年度では,上記の1. 実体知覚における聴覚系の寄与の解明について研究を進めた。実験に用いる聴覚刺激提示装置としてバイノーラルシステムを用い,調整を行った。具体的には,ヒトが接近する音を収録し,接近による物理的な音響刺激の変化の分析,およびバイノーラルシステムで提示し,実空間における音響情報の変化を再現できているか,検証した。加えて,聴取実験を行い,音源までの距離が変化していることを知覚できているか,確認を行った。その結果,音響情報の物理的な変化の傾向をほぼ再現できているものの,低周波数帯域では実空間との差異が大きくなることがわかった。また,主観的には対象までの知覚された距離にばらつきがあることがわかった。この結果から,実験装置としては低周波帯域での補正を要することが明らかになった。また,システムによる比較を想定して,スピーカを用いた3次元音場再現システムの結果を整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画における本年度の位置付けは,実験に用いる装置の開発と適用性の確認である。この計画に従い,実験に用いるバイノーラルシステムを調整し,接近刺激の物理的な再現性および聴感上の印象を検討した。その結果、低周波帯域の再現性が低く,装置の調整がさらに必要であることがわかった。また,聴感上もパーソナルスペースが侵害されている感覚は得られなかった。このことから物理的に再現できていない低周波帯域の音響情報が実在感の知覚に重要である示唆を得た。以上の結果から,概ね研究は順調に遂行されている言える。
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今後の研究の推進方策 |
28年度の研究成果から,実験装置には低周波帯域の補正が必要であることがわかった。これらの補正を行い,実空間と同等の接近が再現できるか,再検証を行う。これらの調整が完了次第,聴取実験を行い,実体を知覚するために必要な音響情報の抽出を行う予定である。また,当初の研究計画にある音刺激の空間情報を人工的に操作し,パーソナルスペースの侵害の知覚に及ぼす影響についての検証を進める。また,低周波帯域の再現が重要である示唆を得られたことから,実環境において低周波帯域に特化した物理測定を追加して行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、予定したよりも音響デバイスの調整が必要である。加えて,当初の計画に加え低周波帯域に特化して実空間を測定する。それらのための装置を購入する予定である。デバイスの調整終了後,複数の被験者を対象とした聴取実験を追加して行う必要がある。以上の理由から使用額に変更が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
新たに,音響デバイスの補正のために計算機と低周波帯域に特化した測定装置を購入する予定である。加えて,デバイスの主観的な再現性を確認するための聴取実験に参加する被験者への謝金代を計上している。
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