研究実績の概要 |
近年,バーチャルリアリティ技術の発展に伴い,仮想空間における他者の存在感をも伝える技術開発が進められている。従来の研究で障害物知覚における聴覚の寄与が報告されていることから,聴覚が他者の実体を知覚するうえでも有用な働きをすると考えられる。しかし,そのメカニズムや手がかりとなる音響情報については不明である。そこで本研究では,近距離の他者に対する不快感(パーソナルスペースの侵害)に着目し,音響情報の物理的分析,心理物理学的手法,生理学的方法を組み合わせ,聴覚におけるヒトの実体を知覚するメカニズムについて明らかにすることを目的とする。 本研究は,[A] 聴覚による他者の存在(実体)知覚の寄与に関する検証, [B]他者の存在(実体)を知覚するうえで必要な音響情報の解明,[C] 他者の存在(実体)に関与する知覚情報処理レベルの推定、の3段階のステップを想定している。令和元年度では[C]他者の存在(実体)に関与する知覚情報処理レベルの推定について検証を進めた。昨年度までに行なった実験結果より、生物由来の音であるかの判断がなされてから気配知覚が処理されると考えられることから,この点について検証を進めた。実験では,音刺激として雑音駆動時間反転音声を用い,分割する周波数帯域および反転時間長を操作することでヒトの音声らしさを系統的に操作した。これらの音声に頭部伝達関数を重畳し,ヒトらしさが実在感の知覚に及ぼす影響について,パーソナルスペースを測定することで検討した。その結果,ヒトらしさの評価が高い音声では,評価が低い音声に比べて,パーソナルスペースが広かった。これらの結果から,実在感の知覚はヒトらしさの判断がなされた後で処理されているものと考えられる。これらの成果を論文としてまとめ,学術雑誌に投稿を行なった。
|