本研究の目的は近距離の他者に対する不快感(パーソナルスペースの侵害)に着目し,音響情報の物理的分析,心理物理学的手法を組み合わせ,聴覚におけるヒトの実体を知覚するメカニズムを解明することであった。特に,(1)実体知覚を規定する要因,(2)知覚情報処理レベルの推定について検討した。その結果,音像定位に必要な音響情報の他に,低周波帯域の時間変動が強調されるとパーソナルスペースの侵害が知覚されることがわかった。また,パーソナルスペースの知覚には,接近する事象の有機性が影響することがわかった。このことは,音の有機性判断のような高次の処理過程が関与すると考えられる。
|