研究課題/領域番号 |
16K16107
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
永谷 直久 京都産業大学, コンピュータ理工学部, 助教 (10636418)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 嗅覚知覚 / Olfactory Perception / ニオイ源定位 / 受動的嗅覚 / 呼吸サイクル / 身体性 / 昆虫行動解析 / Animal behavior |
研究実績の概要 |
実施2年目にあたる本年度は、昨年度開発した嗅覚刺激デバイスを用いて、1)左右の鼻腔に対する呈示タイミングの時間差が混合臭知覚に及ぼす効果の検証と、2)ニオイ源定位における身体運動と頭部の向きの影響の検証を行った。いずれも受動的嗅覚に関する実験であった。 まず、1)では1呼吸サイクル内での左右の鼻腔への提示時間差が、4種類の単臭の混合臭に対して、構成ニオイ要素の識別および認識に影響を与えるかの実験を行った。その結果、300msの時間差よりも1300msの時間差を設けたほうが混合臭の構成ニオイ要素を多く正答する割合が高くなることが分かった。条件設定として、1呼吸サイクルにおける1300msの時間差は片鼻腔へのニオイ提示と実質的に等価となる条件であったため、混合臭知覚においては片鼻腔で吸引したほうがニオイの嗅ぎ分け能力のパフォーマンスが高くなることが示唆される結果となった。 2)のニオイ源定位に関する身体運動の影響を調査した実験では、被験者自身の手の煽ぎ動作とただ単に手を伸ばした場合でニオイ源の方位決定にどのような影響があるのか、頭部を動かす手の方向を向くのか違う方向を向くのかの条件も含めて検証を行った。また、昨年度のニオイ源定位実験から、外部装置によって発生した風の方向によってはニオイ源の知覚方向が影響を受けにくいという結果を得たため、手の煽ぎ動作によって生じた風を遮蔽した場合とそうでない場合の条件でも実験を行った。その結果、扇ぎ動作をしたほうがニオイ源の方位を動作した手の方向に知覚しやすいこと、扇ぎ動作によって生じる風を知覚するか否かは方位決定に影響しないこと、頭部の向きもニオイ源の方位決定に影響することが示唆された。 最後に、当初の研究計画にはなかったが、ニオイに対する昆虫の行動変化を解析する目的で、昆虫のためのバーチャルリアリティシステムの検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の達成目標であった、被験者の左右の鼻腔に対する時間差が混合臭の嗅覚知覚に対して、どのような影響を及ぼすのかを明らかにすることができ、計画通り進展している。装置としては、計画を前倒しして呼気リズムも考慮した改良までは至れなかったが、混合臭を安定して提示できるようにニオイ瓶を用いたシステムへと改良することができた。また、当初の計画にはなかったが、ヒトの嗅覚特性をさらに深く考察するために、比較対象として昆虫の嗅覚知覚メカニズムを検証するための、昆虫のためのバーチャルリアリティシステム開発のための知見を得ることができた。 また、実験を通して、昨年度得たニオイ源定位における風の影響に関する知見をさらに深く検証でき、左右の鼻腔への時間差による嗅覚特性の検証だけではなく、より広範囲にヒトの嗅覚知覚特性を明らかにすることができたことはこれまでになかった新しい嗅覚ディスプレイの開発にも寄与できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、まずは計画通りにスニッフィングを含めた能動的嗅覚への影響を検証する。そのために、呼気リズムを考慮した提示装置の開発・改良を行う。これまでの実施によって得られた、単臭および混合臭を用いた受動的嗅覚の特性の知見と比較することで、より多面的にヒトの嗅覚知覚に関する知見を得ることを目標とする。これらの実験の結果を通して、時空間分割呈示おける呈示周期の最適化や呈示周期の変調方法に関する指針を得る。 最終年度のため、以上の実験結果をまとめて、論文誌等への投稿および、国際会議における発表、技術展示などを行う。
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