研究課題/領域番号 |
16K16123
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
田中 琢真 滋賀大学, データサイエンス学部, 准教授 (40526224)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 理論神経科学 / 神経回路網 / アルゴリズム情報理論 |
研究実績の概要 |
神経細胞が無限個ある状況で、特定の回路の出現確率が結合強度の二乗和(結合行列の全成分の二乗の和)で与えられるモデルについての研究を継続している。非線形な細胞から線形な細胞へ、線形な細胞へ非線形な細胞へと結合がある反回回路をカーネル法によってモデル化すると、線形な細胞が無限個あるとしても、線形な細胞は時刻と同じだけの個数あるとすれば実効的には無限個用意したのと同じになる。これは細胞が非常に多い極限で回路がどのような挙動を示すはずかをシミュレートできるモデルである。言い換えれば、細胞が無限にあるランダム結合回路において出現しうるダイナミクスを再現しうるモデルである。この定式化で、二つの刺激が同時に提示された後にのみ出力を出す課題や、入力に応じて複数の運動パターンのいずれかを生成する課題を実行でき、このとき持続発火活動が出現することがわかった。さらに、この場合回路のダイナミクスは低次元になり、複数の運動パターンを生成する場合も同様であることがわかった。ダイナミクスの次元は課題を実行できる最小限の値になる。たとえば、一つの値を記憶すればよい場合には一次元になり、三つの状態のうちどれに属するかを記憶しなければならない場合には二次元になる(二次元空間上では三つの点の位置を線形判別機で区別可能であるため)。これは課題を実行している途中の運動野で実験的に観察される活動の低次元性の特性と由来をよく説明している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以上の結果について論文にまとめ、現在投稿中である。 また、確率的素子についての学習則を導き、これについてのシミュレーションを行う中で、細胞数を変えることによって神経回路の挙動が大きく変化してしまう問題があることに気づいた。たとえば、細胞数を増やすと学習の速度が上がったり下がったりする。細胞数を増やすことによって学習の速度が常に向上するならば好ましいが、実際には細胞数の増加によって学習が困難になる場合もあることがわかった。また、一般に細胞数が同一でも初期結合の分布によっては学習結果や学習の進展が安定せず、一般的な結論を導きにくい。これは、ダイナミクスが細胞数に陽に依存してしまっているからだ。 そこで、細胞数に依存しないダイナミクスを示す神経回路モデルを構築することを試みた。決定論的な二値モデルの場合、結合強度を特定の分布からとることによって細胞数に依存しないダイナミクスを出すことに成功した。 ここでは、ダイナミクスの特徴付けは周期軌道の長さおよびその分布で行った。細胞数に依存しないことは しかし、確率的な二値モデルについては細胞数に依存しないダイナミクスを定義するためにはどのように発火状態を決めるべきかはまだはっきりしない。今年度はこれを明らかにすることを試みる。具体的には、ある種の空間的な相関のある乱数を使うのが有望だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在構築できている細胞数に依存しないもダイナミクスを持つモデルは、決定論的な二値モデルである。しかし、決定論的な二値モデルについては有効な学習アルゴリズムが存在しない。連続値モデルであればバックプロパゲーションがあり、確率的モデルであればマルコフ連鎖の特性に基づく方法がある。そこで、このモデルを連続値モデルか確率的モデルに変形して細胞数に依存しない学習ダイナミクスを持つモデルの構築を目指す。具体的には、空間的な相関のある乱数を使って確率的な二値モデルで学習を行うのがよいと考えている。そのためには、大規模な計算機実験を行う必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた大規模な計算機実験に取りかかる前に現段階での結果を論文にまとめていたため、計算機購入費が予定より低くなった。また、論文校閲費用も執筆が遅れたため次年度以降に追加で計上することになった。
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