研究課題/領域番号 |
16K16127
|
研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
加藤 秀行 東京工科大学, 工学部, 助教 (00733510)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 視床皮質系 / 情報処理 / ニューロン / スパイク / ネットワーク |
研究実績の概要 |
ラットやマウスなどのげっ歯類は,視覚のみならずヒゲからも外界情報を取得している.ヒゲからの情報は,視床を中継し皮質へと伝達される.近年,この視床におけるニューロンはヒゲへの刺激情報における運動の特徴量に対して選択的であることが報告されている.これは,視床において外界情報が運動の特徴量に分解され,皮質に伝達されていることを意味する.このような情報の分解と統合は,神経系のあらゆる領野において観測されており,その情報処理機構の機能的役割を明らかにすることは重要であると考えられる. 平成28度は,先に述べた外界情報の分解と統合の機能的役割を明らかにすることを目標とし,その第一段階として視床皮質系の数理モデルを構築することに注力した.外部情報の受容野であるバレル皮質第4層のニューラルネットワーク構築のため,まず既存の電気生理学実験により得られているニューラルネットワークの構造や統計量などを網羅的に調査した.これらをもとに,高速計算機上に興奮性ニューロンと抑制性ニューロンから構成されるニューラルネットワークを実装した.これらニューロンの振る舞いをシミュレーションするニューロンモデルとして,計算コストや再現可能な発火パターンの多様性を考慮し,多次元時間スケールアダプティブ閾値モデルを採用した.興奮性ニューロンは,頻度の低いゆっくりとしたスパイク活動を示すニューロンと高頻度なスパイク活動後に低頻度でゆっくりとした活動に落ち着くニューロンの2種類を実装した.抑制性ニューロンは,入力に対し敏感で高頻度にスパイクを発するニューロンと閾値が低いことにより高頻度なスパイク活動を示すニューロンの2種類を実装した.これに対し,バレル皮質第4層へ情報を送信する視床のニューロンは,一般化線形ポアソンモデルと呼ばれる統計ニューロンモデルを用い,各運動の特徴量に選択的に応答するニューロン集団を構築した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は,げっ歯類の視床において,なぜ外界情報における運動の特徴量が分解され,皮質において統合されるのかを明らかにすることである.平成28年度は,興奮性ニューロン2種類と抑制性ニューロン2種類が混在するバレル皮質4層のニューラルネットワーク,ヒゲの運動の各特徴量に選択的に応答する視床のニューロン活動を数値シミュレーションするシミュレータの作成を行った.パラメータの微調整などは残るものの研究全体の核となるシミュレータの実装はできており,研究課題遂行に必要な最低限のステップをクリアしていると考えられる.よって,おおむね順調に進展していると判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,バレル皮質第4層のニューロン集団の活動からヒゲへの刺激の再構成を行うことで,バレル皮質第4層のニューロン集団が有する外界情報の表現能力の評価を行う.評価には,相互情報量を用い,評価に十分な長さのスパイクデータを用いる.バレル皮質第4層の多ニューロンスパイクデータをネットワークの応答とし,貪欲法により刺激情報の情報量を最大化する皮質ニューロン集団を探索する.これによりヒゲ一本に対する外界情報を表現するのにどの程度のニューロン数が必要であり,また,外界情報をどの程度の再現できるのかを定量的に評価する.さらに,情報理論をベースとした複雑ネットワーク的手法を応用することにより,同定されたニューロン集団が形成するネットワークにおける情報伝達効率を評価する.さらに,同定された皮質ニューロン集団と視床のニューロン集団の結合形態を解析することで,なぜ同定された皮質ニューロン集団の外界情報再構成能力が高いのかを明らかにする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の予算としてIntel CompilerやMatlabを申請していたが,これらのライセンス契約は非常に細分化されており,また価格改定などにより現在の研究環境において最適な契約を選択するのに時間を要した.また平成28年度は,先述のとおりシミュレータの実装に注力しており,このシミュレータの実装の段階では,申請したIntel CompilerやMatlabがない状態でも研究遂行に大きな差し支えがなかったため購入を見送った.
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は,平成28年度に作成したシミュレータを用いて大量のシミュレーションを行い,これらから得られた大量のビックデータを解析する.そのため,研究を効率的に遂行するために,計画通りIntel CompilerやMatlabを購入する.
|