研究課題/領域番号 |
16K16129
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
菅野 円隆 福岡大学, 工学部, 助教 (10734890)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | リザーバコンピューティング / 時間遅延ダイナミカルシステム / 半導体レーザ / 光情報処理 / 機械学習 / 非線形ダイナミクス / 相互結合 / 時間遅延フィードバック |
研究実績の概要 |
本研究では,相互結合された光-電気システムを用いた時間遅延リザーバコンピューティング(Reservoir Computing, RC)と呼ばれる情報処理手法の研究を行っている.平成28年度の目標は相互結合された2つのシステムを用いることで,単一システムを用いるよりも高い情報処理性能を達成することであった.RCでは,低次元な空間において表現される入力データをシステムが高次元空間に非線形写像することで,異なる入力データを線形分離可能にすることにより情報処理を行う.相互結合システムをRCに用いることで入力データを複雑に変換可能であると期待できるため,情報処理性能を向上可能であると考えられる.我々は光-電気システムを用いたRCの数値シミュレーションを行い,相互結合された光-電気システムが単一システムよりも高い情報処理性能を達成可能であることを示すことができた.本研究内容はJpn. J. Appl. Phys.にて出版済みである. さらなる情報処理性能の向上のために,我々は相互結合された2つのシステムのそれぞれの出力を両方とも用いることを考えた.時間遅延RCではシステムの出力時系列を時分割することでノードを仮定し,各ノード値の重み付き線形和を情報処理結果として用いる.一般にRCではより多くの数のノードを用いることで高い情報処理性能が得られる.本提案では相互結合システムの2つの出力をそれぞれ時分割することで2倍の数のノードをRCに利用することができる.この手法において,我々は2つのシステムを単に並列化するよりも相互結合することで高い情報処理性能を達成できることを実験・数値シミュレーションの両方で示した.この研究成果はレーザー学会および応用物理学会にて発表済みであり,国際学会Information Photonics 2017にて発表済みである.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の目標は,相互結合された2つの光-電気システムを用いてRCを行うことにより,1つのシステムを用いるよりも高い情報処理性能を達成可能であることを実証することであった.我々はこれを2つの観点から研究を行った.1つはシステムの相互結合により情報処理性能を向上させることであり,もう1つは,相互結合された2つのシステムのそれぞれの出力をRCに用いることで情報処理性能を向上させることである.結果として,この2つの手法はどちらも情報処理性能を向上させることが明らかとなり,当年度の目標である相互結合システムをRCに用いることで情報処理性能を向上可能であることを示すことができた.具体的には以下のとおりである. 我々は相互結合システムと単一システムのそれぞれを用いたRCの情報処理性能をカオス時系列予測テストにより評価した.予測結果を比較することで,相互結合システムを用いたRCの予測結果が単一システムよりも予測誤差が小さくなることを明らかにした.これは相互結合システムを用いることでRCの情報処理性能を向上可能であることを示している. さらに我々は相互結合された2つのシステムの出力を両方ともRCに用いることにより情報処理性能の向上を試みた.2つの出力時系列を時分割することで2倍の数のノードを仮定し,各ノード値の重み付き線形和を情報処理結果として使用する.本提案手法を用いて,実験・数値シミュレーションの両方においてカオス時系列予測テストを行った結果,提案手法がより低い予測誤差を達成可能であることが明らかとなった.この時,相互結合システムにおいて高い情報処理性能を得るために,相互結合された2つのシステムの遅延時間を非対称にすることが必要である.特に片方のシステムの遅延時間を非常に短くすることで情報処理性能が向上することが明らかとなった.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究において「相互結合された2つの光-電気システムを用いてRCを行うことで情報処理性能を向上させること」は達成することができた.特に相互結合された2つのシステムのうち,片方のシステムの遅延時間を短くすることで情報処理性能が向上することが明らかとなった.しかしながらそのメカニズムは未解明である.システムのダイナミクスの観点から情報処理性能が向上するメカニズムが明らかなれば,時間遅延RCにおいて情報処理性能を向上させる一般的な知見を得ることができる可能性があるため,これは重要な課題である.そこで平成29年度の課題としてそのメカニズムの解明を実験・数値シミュレーションにおいて行う.
また平成29年度の当初の研究課題として,光-電気システムを用いた並列情報処理のためのシステムを構築し,異なる2つの情報処理タスクの並列処理を行うことが挙げられる.本システム2つの光強度変調器を有しており,それぞれに異なる情報処理タスクの信号を入力することで,並列に処理を行うことが可能となる.システムを構築するために使用する半導体レーザおよび時間遅延フィードバックのための長距離光ファイバを2つの光強度変調器で共有することで簡略化する.本システムにおいてRCを行うために,まずそれぞれの光強度変調器に異なる信号を入力したときにコンシステンシー(入力に対する出力の再現性)が達成されることを調べる.次に情報処理性能の評価のために,カオス時系列予測と音声単語認識の2つの異なるタスクを本システムに行わせる.2つのタスクを処理するための入力信号をそれぞれ2つの変調器に同時に入力し,それぞれの応答出力を得ることで並列処理を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の研究において使用する実験装置の購入に使用するためである.今年度の研究計画として,当初の計画とは別に,相互結合された光-電気システムを用いたRCにおいて情報処理性能が向上したメカニズムについて明らかにするための実験を行う.この実験を効率的に行うために,偏光保持光ファイバアッテネータが必要である.このファイバ装置は通過するレーザ光のパワーを調整するために用いる.レーザ光のパワーの調節は相互結合された光-電気システムにおいて,フィードバック強度と結合強度を調節するために必要である.
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度の研究を遂行するために新たに複数の光ファイバ装置を購入する.並列情報処理システムを構築するために,偏光保持光ファイバサーキュレータ,偏光保持光ファイバカプラ,偏光コントローラが必要となる.また相互結合システムを用いることで情報処理性能が向上するメカニズムを調査する実験のために,光ファイバアッテネータを用いる. 加えて学会における情報交換や研究成果の公表のために必要な出張経費を旅費として計上する.具体的にはNonlinear problems and its Applications 2017,Society for Industrial and Applied Mathematics on Applications of Dynamical Systems 2017に参加予定である.これらの国際学会では,RCに関する発表が予定されており,議論を深めることができると期待できる.
|