本研究では,物理過程を用いた人工知能の実装手法の1つである時間遅延光Reservoir Computing (RC)の情報処理性能向上手法を提案し,実験・数値シミュレーションの両面においてこれを実証することを目的としている. 一般的なRCでは多くのノードを結合して構築された人口ニューラルネットワークが用いられ,ネットワークに信号を入力したときの応答を用いて信号の予測や分類などを行う.これに対して時間遅延光RCでは,時間遅延された自身のフィードバック信号を入力として有する1つのシステムをネットワークとして用いる.この手法は従来のRCよりも物理実装が容易であり,さらに光を用いた実装により処理速度を高速化できる.本研究では,光RCの情報処理性能の向上のために時間遅延フィードバックを有する2つのシステムを用意し,これらを相互に結合して構築された相互結合システムを用いる. RCでは入力された信号をネットワークが出力において複雑な信号に変換し,異なる信号の区別を容易にすることに基づいて情報処理を行う.複雑なネットワークを用いることで,入力信号がより複雑な信号に変換されることが期待できるため,相互結合システムを用いることで時間遅延光RCの性能向上を期待できる. 本年度は,相互結合システムの2つのシステムから得られる出力の両方を利用することで,情報処理性能の向上が可能であるかを調査した.性能はカオス時系列予測テストにおいて,予測精度を用いて評価した.2つのシステムは同じ信号を入力されるため,それらの出力が同じ信号になり,そのままでは性能向上させることができない.そこでシステムを非対称に構築することで,同じ入力信号に対して2つのシステムが異なる出力信号を生成可能となるようにした.その結果,1つのシステムを用いたRCよりも高い予測精度を達成可能であることを示した.
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