研究課題/領域番号 |
16K16146
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松井 佑介 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90761495)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | がんのサブクローン進化 / 分類手法 / 多領域シークエンシグ / 次世代シークエンサー / ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、検体ごとのがんの進化構造を統計科学的なアプローチで推定・分類する手法を開発し、肺がん・腎がんにおいてがんの進化原理が異なること、またがんの進化構造と再発・治療抵抗性との間に関連性があることを明らかにした。 がんは一つの正常な細胞が遺伝子変異を蓄積しながら進化し、異常増殖することで発生すると考えられている。この遺伝子変異の組み合わせは患者ごとに異なり(腫瘍間不均一性)、また患者一人の中でも、異なる遺伝子変異の組み合わせを持つサブクローンと呼ばれる細胞集団が存在することが明らかとなっている(腫瘍内不均一性)。がんの治療抵抗性と再発性は同じがんの中に含まれる一部の抵抗性を示すサブクローンに一因があり、もともと少数であった抵抗性のサブクローンが、薬剤投与という環境変化に適応するために進化・増殖することで抵抗性を獲得すると考えられている。そのため、治療背景の異なるがん細胞のサブクローン進化の構造がどのように異なるのかを理解することはがん治療において重要である。 本研究では、一検体のがんから複数の異なる部位の遺伝子変異を次世代シークエンサーを用いて調べることで、検体内においてサブクローンがどのような過程で進化したかを推定し、多数検体から得られるサブクローン進化の違いを定量化することで、対象群をサブクローン進化の類似性に基づきクラスタリングする解析手法を開発した。 各グループと治療背景との関連性を調べることで、サブクローン進化と治療反応の関係性を調べることが可能である。実際に8名の淡明細胞腎細胞がんおよび11名の非小細胞肺がんを本手法により解析した結果、同定したサブグループが再発性と薬剤感受性の特徴を持っていることが明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、がんの進化構造を特徴付けるための数理的な基礎理論である木構造空間を詳細に検討を行い、本課題への応用に向けて解決が必要な問題点に対する数理的な拡張を行い、がんの進化構造を分類するためのプロトタイプを作成した。次年度では、プロトタイプに基づく数値実験を実施して、既報のがん進化構造の特徴を捉えられていることを確認するとともに、実際のデータへの適用を通じて有用性を確認した。また、ソフトウェアの公開を行うとともに、プレスリリースも行い社会への発信も積極的に実施した。またこれらの成果を、国際会議と雑誌論文にて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、がん進化の構造を遺伝子変異より推定し、進化構造のトポロジーに基づいて進化木を分類する方法を開発した。がん進化構造の推定では、離散的問題の性質上、最適解が一意に定まらず多数の候補解が生じうるため、はロバストな推定方法を開発することが今後の研究課題である。また、がん進化を医学・臨床的な観点から解釈していくためには、ドライバー/パッセンジャー変異の区別や、獲得された変異が関わる生物学的パスウェイとの関連性などとも結びつけなければならないが、現時点ではそれらの情報までを組み込んだ手法は提案されておらず、それについても今後の研究課題であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度までにがんの進化構造を推定し分類する手法を開発し論文化を行ったが、その過程で、分類したがん進化の構造を医科学的な観点から解釈する点についてさらに発展させる方法論を見出したため、当初の計画を一部変更し、次年度で、がん進化の生物学的意義を生物学的パスウェイに基づき推定する手法を開発することを目的とした計算機環境維持・論文投稿費用分の金額を繰り越した。
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