研究課題/領域番号 |
16K16151
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山岸 賢司 日本大学, 工学部, 講師 (90460021)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 人工アミノ酸 / フラグメント分子軌道法 / 相互作用エネルギー / 構造安定化 / ハロゲン原子 / 軌道間相互作用 |
研究実績の概要 |
申請者らは、タンパク質を構成する特定のチロシンにハロゲン原子を導入するだけで、構造安定性が大幅に向上することを見出した(Scientific Reports.2015)。本研究では、わずか数個のハロゲン原子導入が引き起こすタンパク質の構造安定化の分子メカニズムを、タンパク質の分子内相互作用の観点で、計算化学的に明らかとすることを目指している。 これまでに、以下の解析を進めた。1.ハロゲン原子が導入され、タンパク質全体の構造安定性が増大したグルタチオン-S-転移酵素(GST)に対して、フラグメント分子軌道(FMO)計算を行い、その電子状態を解析した。2.FMO法に基づくフラグメント間の相互作用エネルギー(IFIE)解析により、GSTを構成するすべてのアミノ酸残基ペアの相互作用エネルギーを解析した。3.アミノ酸残基ペアの相互作用エネルギーを用いて、ヘリックス-へリックス、シート-シート、およびヘリックス-シートなどタンパク質の2次構造間の相互作用を算出し、タンパク質の構造安定性との相関の解析を行った。また、解析したアミノ酸残基ペアの相互作用エネルギーは、大きさによって色分けしたヒートマップを作成し可視化した。4.ハロゲン化GST変異体に対して、局在化MP2(LMP2)レベルでのFMO計算を実行した。計算結果から目的の局在化軌道を効率よく抽出できる解析プログラムを独自に作成し、ハロゲン原子の形成するファンデルワールス相互作用を解析した。5.解析したハロゲン原子に対する軌道レベルで相互作用から、ハロゲン結合の形成を判断し、タンパク質の構造安定化への寄与を同定した。以上の解析から、構造安定化に対するハロゲン原子の直接的な効果を明らかとすることができた。今後は、ハロゲン原子の間接的な効果を解析し、ハロゲン原子導入が引き起こすタンパク質の構造安定化の分子メカニズムを解明していく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、わずか数個のハロゲン原子導入が引き起こすタンパク質の構造安定化の分子メカニズムを、タンパク質の分子内相互作用の観点で、計算化学的に明らかにすることを目指している。 申請書に記載した当初計画通り、解析の対象には、ハロゲン原子が導入され、その構造安定性が大幅に向上したグルタチオン-S-転移酵素(GST)とした。ハロゲン原子が導入されたGSTの構造全体に対して、フラグメント分子軌道(FMO)計算により電子状態を決定した。次に、このFMO計算によって決定した電子状態に基づき、GSTを構成するすべてのアミノ酸ペアの相互作用エネルギーを解析することができた。さらに、この相互作用エネルギーを、静電、交換反発、電荷移動の各エネルギー成分に分割した。特に、タンパク質の構造維持に重要な水素結合に関しては、相互作用の大きさに加えて、電荷移動の向きや移動量についても計算を行った。次に、申請書に記載した通り、ハロゲン化GST変異体に対して、局在化MP2(LMP2)法によるFMO計算を実行し、軌道ペアの相互作用エネルギーを算出した。ハロゲン原子の局在化軌道に対して、その相互作用エネルギーを積算し、ハロゲン原子の形成するファンデルワールス相互作用を軌道レベルで解析した。これらの結果を用いて、ハロゲン原子が導入されたアミノ酸に注目して解析を進めたところ、ハロゲン原子を介してアミノ酸同士の新しい相互作用が生じていることを明らかにすることができた。以上、当初予定した研究内容を計画通りに進め、タンパク質の分子内相互作用の解析を通じて、タンパク質の構造安定化に対するハロゲン原子の直接的な効果について明らかとすることができた。したがって、本研究は順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続きフラグメント分子軌道(FMO)法を用いてハロゲン原子が導入されたグルタチオン-S-転移酵素(GST)変異体の分子内相互作用を解析するとともに、分子内相互作用の解析結果を用いて、タンパク質全体の構造安定性を評価する解析手法を構築することを目指す。 まず、FMO法を用いた分子間相互作用の解析では、解析の対象を野生型の酵素(GST)に対しても展開し、同様にFMO法を用いた電子状態の解析を進める。野生型GSTとハロゲン化変異体GSTでの相互作用を比較することで、「ハロゲン原子の効果」のみを抽出できる。これにより、ハロゲン原子導入によるタンパク質の安定化に対する間接的な効果を明らかとしていく。 次に、タンパク質の分子内相互作用と構造安定性との相関関係を構築する。相互作用と構造安定性との相関を構築することは、困難が予想されるが、本研究の解析対象とした酵素(GST)に対しては、これまでに様々な部位に対するハロゲン化を行い、それに伴う構造安定性の実験データが蓄積されているため、相関解析に最適である。申請者は、平成28年9月まで、化学技術振興機構(JST)の「第一回マッチングプランナープログラム探索試験」の研究費の採択を受け以下の研究を進めてきた。この研究では、タンパク質に特異的に結合できるRNAアプタマーを、分子間相互作用を用いて予測するものであり、計算結果と機能とを対応させてきた実績がある。分子内の相互作用と構造安定性とを対応させることが必要となる本研究と共通する部分があり、先行する研究ですでに得られているノウハウを活用していく。 以上の解析から、ハロゲン原子導入が引き起こすタンパク質の構造安定化の分子メカニズムを解明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、局在化MP2法を用いて、ハロゲン化されたタンパク質に対して、フラグメント分子軌道(FMO)計算を行い、軌道レベルでの相互作用解析を行う。この解析には、膨大な軌道ペアの相互作用エネルギーが計算される。これらの計算データの単純な解析・整理を行う研究補助員を雇用し、研究を効率的に進める予定であった。しかし、この解析を行う時期が、年度末となり、研究補助員として雇用する適任者がいなかったため、雇用を行っていない。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、研究を効率的に進める為、膨大な計算データの単純な整理を行う研究補助員の人件費を必要とする。また、当初の想定以上に解析データの容量が増大しているため、これらのデータの保存、およびバックアップするために、ハードディスク(HDD)の購入を予定している。また、当初予定通り、海外での研究成果発表を行い、研究の成果を広く社会に発信していく。さらに、本研究で得られた研究成果は、オープンジャーナルなどの論文誌へ投稿する予定であり、掲載料が必要である。
|