研究課題/領域番号 |
16K16153
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
竹本 智子 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 研究員 (00450403)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 画像処理 / 領域分割 / インスリン受容体 / 可視化 / 細胞膜 / 画像認識 |
研究実績の概要 |
脂質ラフトとは細胞内の情報伝達プラットフォームの役割を担い、細胞内輸送や免疫応答などの機能発現に関与するとされる。脂質ラフトの機能異常は様々な病態の発生原因になるとされるが、その動態はまだ明らかになっていない。 そこで本研究では脂質ラフト上に存在する各種のシグナル受容体のうち、特にインスリン受容体の刺激変化に注目することで、シグナル伝達時の脂質ラフト周辺の細胞膜の動態を明らかにしようとしている。 本研究ではこれまでに、近年確立された環境感受性の標識ラベルで受容体周辺の膜環境のみを標識したタイムラプス画像を大量に獲得した。その後、取得画像を用いてインスリンシグナルに対する受容体周辺の膜環境変化を、GP(Generalized Polarization)値を基準に定量解析することを目的としてきた。この目的のため、ノイズの多い取得画像から受容体周辺領域のみを認識する画像処理手法を提案した。また、インスリンシグナルに対するGP値の時間変化と細胞膜の位置情報との相関を解析するため、正規化相互相関による局所領域の差分統計量を用いてGP値の時間変化を解析する方法を提案した。以上の提案によって、インスリン受容体付近の細胞膜ではシグナル伝達後にGP値が下がる傾向にあり、またその変化量は細胞膜の形態によって違いがある可能性があることが示唆された。これらの研究成果は国内外の学会やセミナーにて発表済みである。最終年度はこれまでの研究成果をまとめ、ジャーナル投稿を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,インスリン刺激に対する受容体周辺の膜環境変化を画像解析を目的とし、目的達成のために以下の3課題を遂行することを掲げてきた. 1.対象領域の認識、2.現象の定量・可視化、3.現象の相関解析 H28-H29年度までに,1の対象領域の認識について,インスリン受容体領域の自動領域分割法を決定した.具体的には,我々が開発している画像処理法の性能評価システムを用いて,約1000以上の領域分割法から,観察画像に適した方法を網羅的に評価した上で,Difference of GaussianフィルタやK-means法等を組み合わせた領域分割法を決定した.その結果,約30万枚の画像から受容体周辺領域の認識に成功し,認識領域のGP値に関するインスリン刺激前後の変化を解析,可視化した. H30年度には、認識したインスリン受容体領域を対象に、インスリンシグナル前後のGP値の時間変化の解析法を提案した。具体的には、正規化相互相関を用いて局所的領域の時間変化量を求め、細胞膜のどの領域でGP値の変化量が大きいか等、細胞の空間的情報とGP値変化との相関を解析した。これらの結果は国内外で既に発表していることから,当初の計画通り概ね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究のこれまでの解析によって、インスリンシグナル後は細胞膜付近のGP値が下がることが分かっている.また、本研究ではGP値の時間変化だけではなく,インスリン刺激前後の局所的なGP値変化及び,細胞膜構造との空間的配置を考慮した大局的なGP値変化の可視化を目指してきた.H30年度の研究成果によって、細胞膜の形態によってインスリンシグナルの伝達に違いがあることも示唆されてきた。H31年度は最終年度であることから、これまでの研究成果を国内外で積極的に発表するとともに、全ての結果をまとめたジャーナル投稿を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究計画の生化学実験と画像取得に関わる部分については、当初の予定通りH30年度までに終了したが、画像解析と成果発表に関わる部分について、研究成果の波及効果の観点から研究期間を1年延長すべきと判断した。そのため、解析に関わるソフトウェア等購入、共同研究者との打ち合わせに関わる出張費、ジャーナル投稿に関わる費用(英文校正、投稿料)を次年度使用分とした。
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