本研究の目的は、北欧と日本の公共図書館における経営のあり方を解明することである。具体的には、公共図書館の「直営による経営」と「ハイブリディゼーションによる経営」の特徴を国際比較分析を通して詳細に記述する。 2021年度は、前年度に引き続き新型コロナウィルス感染症の流行で、北欧における公共図書館を対象にした調査が中止や延期となったために研究課題の実施は遅れ、計画の変更を余儀なくされた。このような制約はあったが、最終的には実施できなかった調査を海外の共同研究者の協力を得て、補うことで研究成果をまとめることができた。この成果は公共図書館における北欧モデルに関する学術論文として投稿し、受理された。日本の事例については、これまでのインタビューデータの取りまとめや追加の資料調査を実施することにより、直営経営の事例に関する研究成果を学術論文として投稿し、受理された。 本研究全体の成果としては、北欧各国(ノルウェー、デンマーク、スウェーデン)と日本(東京都新宿区、愛知県田原市、神奈川県海老名市、高知県高知市等)の公共図書館を対象に直営とハイブリディゼーションによる図書館経営のあり方に関する総合的な分析に成功した。補足的に、北欧と日本の事例における特徴を明確にする際に重要な米国の公共図書館の事例分析も追加で実施し、営利企業を導入した際の状況がわかった。 具体的に解明されたこととして、ハイブリディゼーションによる図書館経営の成功事例は極めて限られており、経営理念が異なる二つ以上の組織は異なる方向を向く傾向にあるために組織間での調整に深刻な問題が生じることが多く観察された。一方、直営による図書館経営の場合は、政策、戦略、組織、サービスの各レベルが動的に繋がりやすく、利用者の状況に応じた有機的な進化が観察された。 総合分析の成果は、今後査読付きの国際学術雑誌へ投稿する予定である。
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