2019年度は、前年度に引き続き、国内のヒューマンライブラリーにおいてフィールドワークを実施し、同時に成果の発信にも力を入れた。具体的には、日本ヒューマンライブラリー学会の理事として、「研修会」という形でヒューマンライブラリーの実施のノウハウやヒューマンライブラリーをフィールドとした研究の可能性などについて、さまざまな学びや意見交換の場を提供することなどに尽力したほか、2020年2月には文科省主催の「共に学び、生きる共生社会コンファレンスIN関東甲信越ブロック」において体験型のワークショップを開催した。また、「デンマークにおけるヒューマンライブラリーに関する分析 -実施の形態と社会的背景に着目してー」という論文を共著で出版し、2019年10月の日本ヒューマンライブラリー学会年次大会では単著で「語りの場の『安全性』を問う: ヒューマンライブラリー主催者のインタビューから」というポスター発表をおこなった。このように、過去3年間で実施してきた調査を、研究者だけでなく広く一般に向けても発信することができ、実り多い最終年度となった。 全期間を通しての研究実績としては、国内のヒューマンライブラリーの現況を包括的に把握することができ、また、これまでのヒューマンライブラリー研究ではあまり着目されてこなかった、「本」(語り手)にとっての意義や、主催者がそれぞれに蓄積してきたものの言語化されてこなかったノウハウなどを明らかにすることができた。ヒューマンライブラリーは差別と偏見を低減する社会的な効果が喧伝されてきたが、実際には催しに関わる多様な主体が、それぞれのライフストーリーに根差した思いや理由を持ってヒューマンライブラリーに関わっていること、またその点においてヒューマンライブラリーという語りの形態は大きな発展可能性を秘めていることがわかった。
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