本研究の目的は、レイ・エキスパートが有する「専門的な知識」の詳細と獲得過程の解明である。具体的には、①「専門的な知識」を獲得した背景と自己認識、②「専門的な知識」の獲得過程、③「専門的な知識」の活用、それぞれについて詳細を明らかにする。 初年度である平成28年度には、A) 患者が治療や看護経験を通じて体得しうる「医学・医療についての実践知」と、B)医師や看護師等の専門家が教育カリキュラムを通じて体系的に習得する「医学・医療についての専門知」について、各概念の比較と再整理を実施した。平成29年度には、「レイ・エキスパートと素人患者」「レイ・エキスパートと専門家」の間で、実際に会話を通じて知識のやりとりが発生する現場(患者団体や各種委員会等)におけるインタビュー調査を実施した。 その結果、レイ・エキスパート以外の「素人患者」は、実践で得た知識を、自身の興味関心や、治療に対する信念といった、ある種の「絶対的な基準」に基づいて選択的に習得しようとするに対して、「レイ・エキスパート」は、実践で得た知識を、患者向け教科書の記述や、診療ガイドライン等の「相対的な枠組み」に基づいて整理し体系的に習得しようとする傾向がみられた。こうした知識の理解や整理に関する特徴と傾向は、個々のレイ・エキスパートがもつ「仲介者としての経験の長さ」(彼らの言葉を借りれば「段階」)によって、より強まる可能性も示唆された(目的①と②の達成) 最終年度である平成30年度前半は、平成29年度の調査に引き続いて補足インタビュー調査を実施した。年度後半は、文献調査と合わせた結果全体について、さらなる分析と精査に注力した。とりわけ、平成29年度に分析が不十分であった、「専門的な知識」の獲得・活用場面について、重点的に分析した(目的③に相当)。研究成果については査読付学術雑誌に投稿するべく、現在、鋭意執筆中である。
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