研究課題/領域番号 |
16K16182
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊佐田 智規 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 助教 (80725359)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物プランクトン / ハイパースペクトル / 沿岸域 / 植物プランクトン機能分類 / リモートセンシング / 光吸収係数 |
研究実績の概要 |
本研究は,広範囲の波長帯を連続的に測定できるハイパースペクトル分光データを用い,海洋における4種類の植物プランクトン機能グループ(Phytoplankton Functional Types, PFT)の優占を識別可能とするマルチプルPFT識別モデルを開発する事が目的である.本研究によって開発されるモデルの完成により,衛星を含めたリモートセンシング技術からのPFT高精度推定だけでなく,海洋の生物地球化学的循環の更なる理解,および水産業分野に貢献できる事が期待される.今年度は,初年度に引き続き,モデル開発に必要となる現場観測データを集積するための船舶観測を実施した.沿岸域においては,北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所の実習観測船みさご丸に乗船し,北海道東部に位置する厚岸湾・沖を対象海域に,植物プランクトンの光吸収スペクトル,植物プランクトン色素濃度,顕微鏡観察による珪藻類の細胞数計測,さらに今年度からはフローサイトメトリーによる藍藻類(シアノバクテリア)の細胞数計測を観測項目に加え,現場データを集積した.上記の観測に加えて,アルゴリズムの検証や高精度化に必要不可欠となるダイナミックレンジ(濃度レンジ)の拡大と,沿岸域と外洋域の比較・検証を目的とし,国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の白鳳丸KH-17-5次研究航海に参加し,西部北太平洋の亜寒帯域から亜熱帯域にかけて,同様のデータを取得した.PFT識別モデルの開発にも着手し,珪藻類だけでなく,藍藻類(シアノバクテリア)と緑藻類の優占を判別が可能なモデルの開発に成功している.また,成果の一部を国際学会2018 Ocean Science Meetingにて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,(1)沿岸域と外洋域における現場観測データの集積,および(2)ハイパースペクトルデータを用いたPFT識別モデル開発の着手を実施する研究計画を立て,おおむね順調に進展していると考えられる. (1)の沿岸域観測では、初年度に引き続き北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所の実習調査船みさご丸にて,厚岸湾・沖を対象に観測を実施,外洋域観測では,国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の白鳳丸KH-17-5次研究航海(2017/10/17~11/10)に参加し,西部北太平洋の亜寒帯域から亜熱帯域にかけて観測を実施した.各観測では,植物プランクトンの光吸収データ,植物プランクトン色素濃度,サイズ別クロロフィルa濃度,顕微鏡による珪藻類の細胞数計測,フローサイトメトリーによる藍藻類の細胞数計測のための採水と実験を行った. (2)ハイパースペクトルデータを用いたPFT識別モデルの開発では,まず初めに先行研究(Isada et al., 2015)で得られた既存のデータセットに対して,初年度に獲得に成功した藍藻類と緑藻類の単離培養株のハイパースペクトルデータを組み込むことで,モデルの検証・拡張を行った.その結果,植物プランクトン色素濃度から推定される藍藻類もしくは緑藻類の優占度が高い場合に,現場と単離培養株のハイパースペクトルデータから得られる2階微分波形の類似度も高く,また両者に優位な相関が得られた.この結果は,既存のモデルが藍藻類および緑藻類の優占も判別可能なモデルである事を示唆する.しかし,既存モデルではフローサイトメトリーによる藍藻類細胞数との比較・検証されておらず,モデルに不確かさが残されている.そのため,フローサイトメトリーのデータを含む厚岸湾・沖や外洋域で採取されたデータを用いモデルを検証し,モデルの推定精度の向上を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた現場観測データと植物プランクトン単離培養株のデータベースを使い,ハイパースペクトルデータを用いたマルチプルPFT識別モデルの開発の完成を目指す.特に,顕微鏡観察とフローサイトメトリーから得られる細胞数データとハイパースペクトルデータから推定される優占度の比較・検証を実施し,モデルの更なる精度向上を目指す.また,植物プランクトン色素データを使った植物プランクトン全体群集の推定に関しても,従来の行列計算(CHEMTAX)だけでなく,ベイズ推定を利用した植物プランクトン群集の推定の試みも実施し,PFT識別モデルの判別精度を向上させていく.研究成果を広く発信するために,国内で開催予定の国内・国際学会に参加する予定である.
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