研究課題
一般にアイスコア中の酸素同位体比はδ18Oを指すが、近年、質量数16と17の酸素の安定同位体比であるδ17Oの測定が可能となり、δ17O とδ18O から算出される17O-excessが新たな古気候指標として注目されている。本研究では、17O-excessの動態解明を行うとともに、古気候復元研究において、従来の水安定同位体比の解釈にδ17Oと17O-excessを加えることで、復元される気候環境変動情報の高精度化を図ることを目的とした。最終年度は、得られたデータの解析を進めるとともに、グリーンランド北西部で掘削されたアイスコアに関して、客観解析データが存在する近年のデータを取得すべく、さらなる分析を進めた。前年度末に壊れた装置の修理にかなりの時間を要したが、最終的には1907年から2013年までの過去107年間にも渡る長期間の17O-excessのデータを取得することができた。アラスカや各地の雪氷試料の分析結果から、17O-excessとd-excessの関係性の変化から過去の気候変化を推定できる可能性が示唆された。その上で、グリーンランド北西部のアイスコアの解析を行ったところ、過去107年間にd-excessと17O-excessの相関関係が数十年周期で変化しており、1920年、1960年、2000年ごろに有意な負の相関が見られた。気候の変化や周辺海域の海氷面積の変化に伴い、異なる海域や流入経路を経た水蒸気が掘削地点に到達し、ミキシングされることで両者の相関関係が変化し、特に、負の相関は、水温が低くかつ、相対湿度が低い高緯度海域からの水蒸気の増加に起因している可能性が示唆された。本研究により17O-excessとd-excessの関係から数十年周期の過去の気圧場の変化や気温変動が復元できる可能性が新たに示された。以上の研究成果は論文にまとめ投稿準備中である。
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