水俣病を経験した我が国では、水銀による環境問題として限定された地域の汚染というイメージが強い。しかし近年は、水銀は様々な化学形態をとりながら、大気、海洋、陸域など複数の環境媒体へと汚染域を拡大する広域汚染物質という認識が広まりつつある。将来拡大するかもしれない水銀汚染への未然防止策として、水銀の排出・拡散の実態を明らかにすることは極めて重要な課題である。 大気中の水銀は、主に三つの化学形態(原子状水銀、ガス状酸化態水銀、粒子状水銀)からなる。大気水銀の95%以上を占めるGEMは、大気からの除去が生じにくく、大気中の滞留期間が約1年と長い。GEMは排出源から地表に到達するまでに数千km も輸送されるため、広域汚染の調査に適している。そこで本研究は、発生源および動態調査を目的として、国立環境研究所辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーション(CHAAMS)にてGEMを捕集し、マルチコレクターICPMSを用いて同位体分析を行った。その結果、夏のδ202Hgは負、Δ199Hgはゼロに近い値となり、それ以外の時期のδ202Hgはゼロに近い値、Δ199Hgは負であった。また、夏のGEMのδ202HgはCOおよびPM2.5との顕著な相関があることから、夏とそれ以外の時期でGEMの発生源が異なることが示された。δ202Hgが低い期間には、小さくはあるがOxの上昇が見られる。このピークは辺戸岬以南の那覇や宮古島でも観測されていることより、GEMの発生源は沖縄以南にある可能性が示された。また本研究では、大気中水銀の端成分調査として自然発生源および人為的発生源の同位体分析を取得した。
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