研究課題
今年度は、光吸収性有機エアロゾルのうち特にBBOPキャンペーンで得られたバイオマス燃焼から生じた煙中のターボールと呼ばれる粒子に着目し、1)個数及び重量割合、2)その光学特性の見積もり、3)化学組成、4)加熱特性、についてのデータを得た。また、5)ブラジルアマゾンにおける固体有機エアロゾルの粘性や個数割合などをまとめた。成果の1及び2では、煙中のエアロゾル粒子のなかで発生直後はほとんど存在しなかったターボールが2-3時間でその存在量を個数濃度で約50%まで増えることを明らかにし、そのデータをもとに光学特性の推測を行い、現在論文準備中である。また、3)化学組成に関してもバイオマス燃焼中の有機エアロゾル中の無機成分などの急速な変化を明らかにするため、1万個以上の粒子の組成分析を行いその結果をまとめている。4)に関しては、ターボールが600度までの加熱で体積の70%を減らすことを明らかにし、論文準備中である。5)のブラジルでの観測結果は、人為起源から生じた有機エアロゾルがアマゾンの森林地帯において個体粒子として存在し、その割合を跳ね返り係数として求め、電子顕微鏡データとの比較を行い論文として出版した(Bateman, Adachi et al., 2017; ACP)。これらの成果は、28年度の研究実施計画である1)球形有機エアロゾルの光学特性測定方法確立、2)球形ブラウンカーボンの存在量を様々な環境試料から測定する、を達成するものである。加えて、本研究の最終目的であるエアロゾルの気候影響に関して、ブラックカーボンや本研究でターゲットとするブラウンカーボン以外の光吸収性エアロゾルとして酸化鉄粒子が新たに見つかった(Moteki, Adachi et al., 2017)。本研究の当初の目的にはなかったが、電子顕微鏡を使った光吸収性エアロゾル酸化鉄の重要性が認識された成果も、本研究の一部として行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究で目標とした、1)球形有機エアロゾルの光学特性測定方法確立、2)球形ブラウンカーボンの存在量を様々な環境試料から測定する、はおおむね達成し、その成果は共著論文を含めて論文4報、準備中論文5報として順調に進行している。一方で、当初予定していた個別粒子単位での光学特性の推定方法の確定はまだ達成できていない。その原因として、電子線エネルギー損失法(EELS)や光学顕微鏡を用いた方法などを提案していたが、EELS解析では電子線による変質影響の評価が十分にできていないこと、光学顕微鏡を用いた方法では弱い光吸収での評価が測定誤差の範囲に含まれる、などといった問題が明らかとなった。そのため、バルクで得られた光学特性データと電子顕微鏡で得られた光吸収性粒子の割合などから推定する方法を採用した。また、新たに光吸収性エアロゾルである酸化鉄粒子の発見など、予想外の成果もあり、当初の予定以上の成果が得られた部分もあり、全体としておおむね順調に進行していると判断した。
おおむね順調に進行しているため、大きな方針の変更はない。28年度は試料採取の機会が5回、今年度はすでに4回計画されており、様々な環境での試料分析が可能になる予定である。個別粒子単位での光学特性分析も、前年度に明らかとなった課題を踏まえて、特に光学顕微鏡での解析を行う予定である。また、ターボールの生成メカニズムについて、これまでに得られた知見をもとに解析を行う予定である。また、執筆中の論文の投稿や、新たな論文の作成を行う予定である。
28年度は総じて、論文の作成やすでにある実験機材での分析を優先し、費用のかかる実験を29年度以降に繰り越した。28年度計画していた海外出張での実験は、国内での実験を優先させたため28年度では行わなかった。また、他の研究プロジェクトで採取した電子顕微鏡用試料が本研究の目的にも使用可能であったためその分の消耗品を節約し、来年度以降の購入に使用する。また、物質材料研究機構での実験は、ユーザーが多く機器の使用時間が予定より少なくなったため、来年度以降に機器使用料を繰り越した。
29年度は当初に計画していた購入品目に加え、28年度から繰り越した予算を使って消耗品等の購入に充てる。また、物質材料研究機構での実験経費も28年度にできなかった分を上乗せして、実験の充実を図る。アリゾナ州立大学での実験も引き続き計画し、現地研究者と打ち合わせを継続しており、その旅費・実験経費を計上している。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
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