研究課題/領域番号 |
16K16188
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
足立 光司 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 主任研究官 (90630814)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / 有機エアロゾル / 光吸収性エアロゾル / バイオマス燃焼 / 気候影響 |
研究実績の概要 |
光吸収性有機エアロゾルのバイオマス燃焼から生じた煙中のターボールと呼ばれる粒子に着目し、1)バイオマス燃焼由来の煙中から生じたターボールの質量割合、2)光学特性、3)化学組成、4)加熱特性、などについてのデータを得た。また、5)フランスで行われた航空機観測で得られた有機エアロゾルの分析、6)和歌山の森林で得られた有機エアロゾル分析、7)光吸収性酸化鉄粒子に関する個数割合や形態・組成分析などを行った。1)に関してはバイオマス燃焼由来の煙中で、ターボールが数時間の間に重量フラクションで30-45%にまで成長することを発見した。2)また、ターボールの光学特性をm=1.56-0.02iと見積もった。この光学特性は従来の見積もりより弱い光吸収をターボールが行っていることを示唆した。1)及び2)の結果はAtmospheric Chemistry and Physics誌に投稿中である。3)ターボールの化学組成を12000個の粒子に関して行った結果、粒子の化学組成が時々刻々と変化していることを明らかにした。4)に関しては、ターボールの電子顕微鏡を用いた加熱特性を詳細にまとめ、Aerosol Science and Technology誌に出版した。5)、6)では様々な環境の有機エアロゾルの組成や吸湿特性に関する分析を行い、電子顕微鏡分析でその個別粒子の有機エアロゾルの特徴を解析した。その結果は、それぞれAtmospheric Chemistry and Physics誌及びJournal of Geophysical Research誌に掲載受理された。7)有機エアロゾルと同等の光吸収効果があるとMoteki, Adachi et al. (2017)で発見した酸化鉄粒子を、沖縄や関東地域の試料で電子顕微鏡を用いた再解析を行い、その個数フラクションを求め、2本の論文として投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目標とした、1)球形有機エアロゾルの光学特性測定はバルクデータと電子顕微鏡を用いた個別粒子分析を合わせることによって定量的な値を得ることに成功した。2)加熱特性の測定も、個別粒子で形態を観測しながら温度を上昇する方法を確立し、論文として公表した。また、TEM-EELSを用いた分析では、窒素のシグナルに着目した有機体窒素のシグナルの抽出を試み、無機態窒素との違いを明らかにした。3)水分を含むエアロゾルの解析は、高分解能光学顕微鏡と電子顕微鏡を組み合わせる手法を新たに開発し、形態変化を起こす水含有粒子とそれ以外の粒子の区別を行うことが可能となった。さらに、様々な環境中の試料の有機エアロゾルを分析する目的では、北極や海洋上での試料を得ることができた。それらの結果、今年度4報の論文が出版され、また3報が査読中である。よって、本研究は順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね順調に進行しているため、大きな方針の変更はない。30年度は試料採取の機会が海外で2回、国内で数回計画されており、様々な環境での試料分析が可能になる予定である。ターボールの生成メカニズムについて、これまでに得られた知見をもとに解析を行い、論文投稿を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度計画していた海外出張での実験は、国内での実験を優先させたため29年度では行わなかった。また、他の研究プロジェクトで採取した電子顕微鏡用試料が本研究の目的にも使用可能であったためその分の消耗品を節約した。また、物質材料研究機構での実験は、ユーザーが多く機器の使用時間が予定より少なくなったため、来年度以降に機器使用料を繰り越した。29年度は総じて論文の作成や、すでにある実験機材での分析を優先したため、多くの研究資金を30年度に繰り越すことができた。
30年度は当初に計画していた購入品目に加え、29年度から繰り越した予算を使って消耗品等の購入や海外での成果発表に充てる。アリゾナ州立大学での実験も引き続き計画し、現地研究者と打ち合わせを継続しており、その旅費・実験経費を計上している。
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