研究課題
光吸収性有機エアロゾルのバイオマス燃焼から生じた煙中のターボールと呼ばれる粒子は森林火災から大量に発生し、気候や地域の環境、また視程に大きな影響を及ぼす重要なエアロゾル粒子である。しかしながら、ターボールは連続分析が困難な粒子で、その詳細な性質はわかっていなし。本研究ではそのターボール粒子に着目し、その生成過程について個別粒子の電子顕微鏡実験を行い、その生成メカニズムについて特に化学反応の寄与に関する考察を行った。その結果、煙中の比較的早い期間で、有機エアロゾル中での急速な化学反応の結果、ターボールが生成する新たなメカニズムを発見した。この結果は、これまでなぞとされてきたターボール粒子の生成メカニズムの一端を明らかにする貴重な発見である。また、その過程において電子顕微鏡の定量分析の解析法を開発し、電子顕微鏡を用いて有機物中に微量に存在する化学成分の正確な定量を可能にした。これらの結果は現在論文にまとめ、投稿改定中である。また、関東や沖縄で採取した光吸収性酸化鉄粒子に関する個数割合や形態・組成分析などを行い、Journal of Geophysical researchなどに3本の論文に共著者として発表を行った。また、森林火災から生じるターボールの光学特性と大気存在量に関する論文をまとめ、共著者としてAtmospheric Chemistry and Physicsで出版を行った。加えて、北極圏のニーオルスンで得たダスト試料の解析を行い、その表面に付着した有機物質が氷晶核形成に寄与することで極域の気候に大きな影響を及ぼすことを明らかにした。この成果は、共著者としてNature Geoscienceに発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究で目標とした、球形有機エアロゾルの光学特性測定、加熱特性の測定、TEM-EELSを用いた分析のいずれも成功し、論文発表を行っている。また、ターボールの生成メカニズムに関する解析も進み、論文投稿中である。さらに、様々な環境中の試料の有機エアロゾルを分析する目的では、北極や海洋上で得た試料を分析した。それらの結果、今年度5報の論文が出版され、また1報が査読中である。よって、本研究は順調に進行している。
2018年度に得られた研究結果をさらに幅広い試料に適応するため、新たな米国で行われる航空機観測に参加して追加実験を行う予定である。また、これまでに得られた成果をまとめて論文化する計画である。
2019年度夏に新たに飛行機観測に参加できる機会を得たため、その旅費や消耗品のために2018年度の支出を抑えた。2019年度は、アメリカでの航空機観測に関わる旅費や消耗品等に使用する予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 5件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
Nature Geoscience
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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