研究実績の概要 |
生活習慣病の原因の1つである肥満は大きな社会問題であり、最近では子どもの肥満も多く知られている。肥満には生活習慣が大きく関与するが、一方で近年の疫学調査において、胎児が母体内で有害な化学物質に曝された影響が出生後も続き、肥満の原因となる脂肪細胞の肥大化に繋がる危険性が報告されている。本研究では母体環境中から検出される化学物質が脂肪細胞肥大化を引き起こす危険性について、遺伝子の発現調節機構であるエピジェネティクスを指標に評価した。 まず、化学物質のリスク評価のための研究基盤として、ブタ脂肪組織、およびブタ前駆脂肪細胞と分化誘導させた成熟脂肪細胞の遺伝子領域におけるエピジェネティック情報の取得を試みた。次世代シークエンサーを用いた、約200ヶ所の遺伝子領域におけるバイサルファイトシークエンスの結果、脂肪組織で特異的なメチル化状況を示す39個の遺伝子領域、脂肪細胞への分化過程でDNAメチル化状況が変化する12個の遺伝子領域を同定できた。続いて、これまでの多能性幹細胞を用いた解析で、エピジェネティック変異原として同定された5種類の化学物質(DEP, Hg, コチニン, Se, S-421)を前駆脂肪細胞へ暴露し、ヘテロクロマチンを指標とするエピジェネティクスへの影響、および脂肪細胞分化への影響を評価した。解析の結果、母体血清中濃度の化学物質暴露は前駆脂肪細胞のヘテロクロマチン形成に影響を及ぼさなかった。さらに、脂肪細胞での脂肪滴の大きさや脂肪分化マーカーの発現解析から、使用した化学物質は母体血清中濃度の範囲内では脂肪細胞分化に影響しないことが示された。以上より、脂肪細胞の分化過程におけるエピジェネティックデータベースを構築できた。さらに、解析した化学物質における脂肪細胞肥大化のリスク評価を行うことができた。
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