研究課題
小児と大人の放射線被ばくによる発がんメカニズムは異なると考えられている。我々は、これまでの研究により、放射線誘発マウス胸腺リンパ腫における原因遺伝子が被ばく時年齢に依存して異なることを報告した(Sunaoshi et al., 2015)。この結果は、放射線被ばく後の胸腺リンパ腫が生じるまでの発がん過程が被ばく時年齢依存的に異なることを示唆する。本研究では、放射線による発がん処理後の胸腺細胞の移植実験、並びに発がん途中における経時的な遺伝子変異の解析により、がんになりやすい突然変異細胞が被ばく時年齢に依存して異なるか否かを明らかにすることを目的とした。突然変異細胞の移植実験では、前年度計画した通り胸腺リンパ腫を発生させる実験を設定し、がんの芽が存在すると考えられる時期の胸腺細胞の移植実験を行った。研究期間の進捗としては予備的な解析までに留まったが、現在は胸腺細胞を移植したマウスの経過観察を行っている。将来的には、当初の目的を達成するために、異なる突然変異を持つ細胞を放射線照射後のマウス胸腺に移植し、移植細胞の細胞競合の強さや組織内微小環境の違いによるがんのなりやすさの違いを比較する予定である。放射線被ばく後の経時的な突然変異解析実験では、発がん処理後のマウス胸腺細胞について胸腺リンパ腫発症に関わる遺伝子異常の解析を行った。その結果、新生児期放射線被ばく後のマウス胸腺細胞では、発がん過程の初期から遺伝子異常が観察される頻度が高い傾向が見られた。また、発がん過程で観察される遺伝子異常の種類にも被ばく時年齢に依存した違いがある傾向が観察された。本研究により、放射線の被ばく時年齢依存的にがんの成り立ちが異なる可能性、特に放射線照射後の初期応答にそのメカニズムが隠されている可能性が示唆された。将来的には、被ばく時年齢を考慮した発がんリスク推定や早期治療法の確立への応用が期待される。
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