食品の加熱調理により生成する発がん性物質であるアクリルアミドは生体内でシトクロムP450 2E1によりグリシドアミドに代謝され、ゲノムDNA中のデオキシグアノシン(dG)のN7位に付加体(GA7dG)を形成する。dGのN7位のアルキル化体であるGA7dGは化学的に不安定で容易に脱塩基するため、GA7dGがアクリルアミドの遺伝毒性・突然変異原性にどのように寄与するかは明らかになっていない。そこで本研究では糖部を2′-デオキシ-2′-フルオロアラビノグアノシンに置換した安定化アナログ(GA7FdG)を作成し、シャトルベクターを用いた細胞内TLSアッセイ、および精製DNAポリメラーゼと基質DNAを用いたin vitro損傷DNA乗り越え合成(TLS)アッセイにより、ヒト細胞におけるアクリルアミド誘発遺伝毒性・突然変異原性の分子機構を解析した。 細胞内TLSアッセイでは、XP4PASV細胞内におけるGA7FdG鎖の複製効率は損傷のないコントロールベクターと比べて半分程度であった。また、GA7FdGに対してT、dA、またはdCを重合した塩基置換変異および1塩基欠失が見られた。In vitro TLSアッセイでは、複製型DNAポリメラーゼであるPolε[イプシロン]のDNA合成活性は鋳型DNA上のGA7FdGにより著しく阻害された。さらに、本研究で用いたTLSポリメラーゼ(Polη[イータ]、Polι[イオタ]、Polκ[カッパ]、REV1、Polζ[ゼータ])のいずれもGA7FdGにより著しく阻害され、単独でGA7FdGを乗り越える活性を持つDNAポリメラーゼは見られなかった。 これらの結果から、GA7dGによるDNA複製阻害がアクリルアミド誘発遺伝毒性と点突然変異の誘発に寄与することが示された。
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