本研究課題は、産婦人科において妊娠中の母親およびそのパートナーに調査協力を依頼し、同意をいただけた協力者のデータによって、妊娠初期(おおよそ妊娠12週目あたり)から出産時までの母親の生活環境要因と胎児組織(主に臍帯および臍帯血)のメチル化変動の関係、ならびにそれらと関係し得る児の健康影響を評価する試みである。「千葉大出生コホート(Chiba Study of M other and Children’s Health)」において調査同意を得た参加者のうちおよそ100名を対象として評価が行われた。平成28年度は1) 出生時の児の頭囲は、臍帯におけるH19遺伝子のdifferentially methylated region (H19-DMR) のメチル化と相関すること、2) 妊娠初期の母親の栄養状態が臍帯のH19-DMRにおけるメチル化の変動と関係すること、3) 母体の年齢もまた、臍帯のH19-DMRにおけるメチル化の変動と相関する可能性を明らかにした。平成29年度はこの業績をまとめると同時に、実験動物を用いた解析を試みた。本研究課題期間中にはメチル化の解析までには至らなかったが、実験動物において、特に妊娠中低栄養と児組織メチル化の関係を解析するための、妊娠中低栄養誘導のプロトコールを確立することに成功した。これらの実験動物では出生体重が対照群と比較して有意に低下していた。この有意差は児の成長に伴ってやがて確認されなくなる。このことはヒトにおける低栄養が関係する出生体重の減少とその後のキャッチアップと同様の現象であるものと思われる。これら妊娠中低栄養モデル動物におけるメチル化レベルの変動を解析するためこれまでに、実験動物からの臍帯採取のプロトコールを確立し、さらに上述した実験動物において複数の臓器を採取し、保存するに至っている。
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