研究課題/領域番号 |
16K16211
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
白波瀬 朋子 東京工業大学, 物質理工学院, JSPS特別研究員 (40442694)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高分子複合材料 / 多孔質体 / メソ孔 / ポリ乳酸 |
研究実績の概要 |
従来の色素(染料、顔料)のような、光のエネルギーが色素中の電子エネルギーに変換される過程で、変換されなかった波長の色が人の目に認識されて発現する色と異なり、構造由来の発色現象を「構造色」という。燐粉表面の規則正しい構造への反射光が美しい青色を呈するモルフォ蝶がその代表例である。本研究では、高分子を混ぜ合わせた高分子ブレンドから一成分を除去する手法で、構造色を有する多孔質材料を創製しており、染色剤フリーの環境に配慮した材料への応用を試みる。 構造色を呈する多孔質体は、具体的には、骨格成分であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)と分解除去成分であるポリ乳酸(PLLA)の高分子ブレンドから、PLLAを加水分解することでメソ孔を有する多孔質体を調製する。これら多孔質体の構造を走査型電子顕微鏡観察や窒素吸脱着測定で評価し構造色との関係を検討する。また、構造色は反射率測定で構造色を評価する。さらに多孔質体の形状の違い(厚さの違い、フィルム・繊維状など)や表面切削による構造色への影響についても評価する予定である。 これまで多孔質構造と構造色の相関を調べるために、PLLA/PMMAブレンドの調製条件(組成、分子量、結晶化条件など)による多孔質体の構造(細孔径分布・空隙率、骨格径など)への影響を評価し、それら多孔質体における構造色の有無を評価した。その結果、限られた熱処理条件において構造色を呈した。 そこで今年度はさらに細かく10℃ごとに熱処理温度を変化させた結晶化PLLA/PMMAブレンド体から多孔質体を調製し、その多孔質構造と構造色との関係を評価した。また反射率を測定することにより、構造色の発生要因について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は多孔質体の構造と構造色の相関を調べるために、細かく熱処理温度を変化させた結晶化PLLA/PMMAブレンド体から多孔質体を調製し、その多孔質構造(細孔径分布、骨格系分布など)と構造色との関係を評価した。これまで構造色を呈する組成および結晶化温度が限られていたが、細かく調製条件を変化させた結果、ブレンド体の調製条件として比較的高い結晶化温度でのブレンド体から得られた多孔質体において、構造色を呈する結果となった。構造色を呈する多孔質体はいずれも分解前に球晶が観察されており、分解後に得られた多孔質体の細孔径分布は十~数十nmの広い分布を有する多孔質構造となっていた。これらのことから、本多孔質体で構造色を有するには広い細孔径分布もしくは100nmに近い比較的大きな細孔が必要であると考えられる。 構造色の発生要因として、反射率測定の波長依存性が波長の4乗に反比例していたことからレイリー散乱と考えていたが、一部の作製条件においてこの傾向と一致しない条件もあることが分かった。今後、表面と内部の多孔質構造の違いを詳細に観察するなどして、レイリー散乱以外の要因も検討していく。また、構造色の色を半定量化するために、色差計による測定を行った。その結果、目で見えている色と同様に青色であることが確認された。 これらの結果から、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで多孔質構造と構造色の相関を調べるために、まずPLLA/PMMAブレンドの調製条件(組成、分子量、結晶化条件など)による多孔質体の構造(細孔径分布・空隙率、骨格径など)への影響を評価し、それら多孔質体における構造色を評価してきた。その結果、比較的高い熱処理温度の調製条件の際に構造色を呈することが分かった。また、反射率測定から構造色の要因として主にレイリー散乱が考えられることを確認した。 次年度は、前年度までに評価した構造色の要因についても引き続き検討する。反射率測定の結果、波長の4乗に反比例したことから、レイリー散乱が構造色の要因と考えているが、調製条件によってはレイリー散乱と異なる傾向が見られた。これらのサンプルについて、表面と内部の多孔質構造の違いを観察するなどして、レイリー散乱以外の要因としてあげられ要因を考察をする。またこれまでの試料サイズは小さいため、全方位の反射率測定のための大きい試料を調製する必要があり、大面積化を試みる。 また、多孔質体の形状による構造色への影響を評価する。分解前のポリマーブレンドの厚さや形状(フィルム状、繊維状)を変化させ、得られる多孔質構造を評価する。厚さや形状が異なると収縮率が変化する可能性があるため、多孔質構造や構造色に与える影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)購入しようと考えていた反射率測定の装置は、他研究室で所有されていることが分かり、お借りして測定してきた。ハンディタイプで自分の研究室で測定する簡易装置の購入も検討したが、設置場所の問題などから購入を見送った。 (使用計画)所属が変更したことから、これまでの実験で使えていた装置や器具などで不足する部分に充てる予定である。また、所属の研究所で実施できない試験などを外部に依頼する依頼分析などにも充てる予定である。
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