研究課題/領域番号 |
16K16215
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
三小田 憲史 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (80742064)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多環芳香族炭化水素 / 光化学反応 / 腐植物質 / フミン酸 / 干潟 |
研究実績の概要 |
H28年度は、ガラスビーズをモデル粒子にした解析を実施した。まず、太陽光シミュレータによる照射実験を行い、ピレンから二次的に生成するハロゲン化PAHについて、GC/MSによってその化学構造を解析・確認した。 次に、干潟の間隙水には高い溶存有機物(DOM)が含まれていることに着目し、DOMがハロゲン化PAHの二次生成に対しどのような影響を与えるか調べた。DOMのモデルには、腐植物質の標準試料として世界で使用されているスワニー川由来のフミン酸を採用した。フミン酸を0-100 mg/Lの範囲内で海水に添加して照射実験を行ったところ、50 mg/Lの範囲まではハロゲン化誘導体の生成量が概ね増加する傾向が得られた。我々の過去の研究から、PAHsのハロゲン化は光照射に伴って生成するカチオンラジカルによって進行することが示唆されている。今回の実験結果から、フミン酸の光増感作用によってピレンカチオンラジカルの生成が促進され、ハロゲン化が進行したと予想される。一方で、フミン酸100 mg/Lの条件下では、コントロール(フミン酸 無添加)よりもハロゲン化誘導体の生成量が若干低下するという結果が得られた。その原因として、フミン酸による光の遮光効果が考えられたため、反応容器やフミン酸の吸収スペクトルから減衰の指標であるlight screening factorを算出し、この値を使ってフミン酸100 mg/L条件下における生成量を補正した。その結果、最大で4割程度がフミン酸によって吸収されていることが分かったが、100 mg/L条件下ではフミン酸による光吸収だけでは説明できない程ハロゲン化誘導体生成量が低下しており、これはフミン酸濃度が増加したことによって消光作用が働いたと予想された。この成果は、水質がハロゲン化PAHsの生成量を左右するということを示しており、PAHやハロゲン化PAHの動態を解明する上で重要な情報になり得ると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に進展 DOMが化学物質の光化学反応に影響を与えるということはこれまでにも報告されてきたが、ハロゲン化PAHの二次生成に着目した研究はこれまで皆無であり、本研究が初の報告例となる。今回の実験によって、DOMがハロゲン化PAHの生成量に関与しているということと、その影響が濃度によって異なるということが示唆されたことで、実際環境におけるハロゲン化PAHの生成挙動解明に近づけたことから、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、水質から底質へと研究対象を変え、底質中成分に着目した研究を実施する予定である。とくに、土壌底質の主要な構成要素である粘土成分や重金属成分に焦点を当てる。各粒子に担持させたPAHに擬似太陽光照射して生成物を解析することで、粒子を反応場としたハロゲン化PAHの生成挙動を解析する。実際の干潟底質を用いた実験も実施する。これらの結果を総合することで、ハロゲン化PAHの二次生成が水性生物に与えるリスクやその低減手法について考究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本実験専用で濃縮装置を購入することを予定していたが、既設の濃縮装置の稼働率が予想より低かったために新規設置を見送り、真空ポンプのみ更新した。これにより経費が抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度は粘土鉱物などの試薬や消耗品の購入が予想されるため消耗品に宛てるほか、現地調査のための物品購入費用や旅費、実験補助のための謝金に多く使用する。
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