多環芳香族炭化水素(PAHs)は光反応性が高く、沿岸域に蓄積する性質をもつ。それらの一部は光化学反応によってさらに毒性の高いハロゲン化誘導体へと変化しうることがこれまでの研究で明らかになっている。そこで本研究では、干潟の粒子に蓄積したPAHsのハロゲン化プロセスについて研究を行った。特に、生成する物質の種類やその生成プロセスを調べ、水中に存在する腐植物質に代表される溶存有機物(DOM)の影響を検証するとともに、PAHsが蓄積した粒子の性質がハロゲン化反応に対してどのように影響するかを、室内実験を中心にして評価を試みた。その結果、PAHsのハロゲン化率は水中のDOM濃度によって異なっており、DOMが反応に関与する可能性が示された。しかしながら、DOMの影響はその添加濃度によって異なっており、促進および阻害の両方の作用をもちうることが明らかになった。また、粘土鉱物を含む複数のモデル粒子を用いてPAHsのハロゲン化率を求めたところ、ハロゲン化PAHsの生成量は用いる粒子によって大きく異なっていた。特にハロゲン化PAHsの生成量はカオリナイト上において高く、他の粘土鉱物よりも反応が進行しやすいことが示された。この理由として、表面酸性度など物理化学的性質がPAHsのハロゲン化反応に影響を及ぼしている可能性が挙げられる。 本研究の成果は、沿岸域に蓄積しているハロゲン化PAHsの濃度予測やそのリスク評価を行う上で有用な知見であると考えられる。
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