研究課題
病院排水中に存在する医薬品成分の存在実態を明らかにするために、病院から公共下水道に放流される排水の採水を通年行った。そして、固相抽出とUPLC-MS/MSをベースとして開発した高感度な多成分同時分析法を駆使して、多種の薬効分類で構成される合計64成分の医薬品成分を対象に、病院排水中の存在実態についての詳細な調査を実施した。また、病院排水に加えて、病院排水を処理区内に有する下水処理場の流入水と、河川へと放流される水処理後の放流水、そして河川においても合わせて同様の調査を行い、汚濁負荷量に基いた負荷影響の評価を試みた。その結果、対象とした医薬品成分が数ng/L~数十μg/Lの非常に幅広い濃度レベルで医療排水中に存在していることを明らかにした。また、病院排水中に存在する医薬品成分は、下水処理場の流入水中に存在する医薬品成分の濃度と比較して、同等又は2~10倍程度高い傾向にあることを確認した。なお、これらの医薬品成分については、下水処理場の水処理工程で一部は除去されるが、多くの成分については十分に除去されずに河川へと放流され、放流先の河川においても概ね類似した濃度で検出される傾向がみられた。次に、汚濁負荷量を基にした評価により、下水処理場に流入する医薬品成分のうち、病院排水に由来する負荷量割合の推定を試みたところ、医薬品成分により負荷影響の大きさは幅広く、抗菌剤や抗癌剤といった成分については病院排水に由来する負荷割合が高くなる傾向がみられることを明らかにした。これらの結果により、河川環境中に放流される医薬品成分の汚濁負荷を削減又は軽減するために有効な対策として、下水処理場に加えて、医療機関においても適切な水処理を行うことの重要性が示された。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた予定通り、医療機関に由来する排水に存在する医薬品成分の実態と汚濁負荷量を詳細に明らかにする事が出来た。また、河川についても合わせた追加的な調査を行い包括的な評価を行えた事は、本研究課題により得られた成果の有益性を高める上で、有意義な知見となりうると考えられる。以上の点から、研究は順調に進んでいると考えている。
今後は、計画していた通り生物処理をはじめとして、オゾンをベースとした高度処理に着目した除去実験を行い、医薬品成分の除去に有効な水処理技術の検討を行う。また、医薬品成分の除去率と、物理化学的特性や化学構造の関連性について相関性の評価を試みる研究を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Chemosphere
巻: 169 ページ: 550-557
doi:10.1016/j.chemosphere.2016.11.102
用水と廃水
巻: 58 ページ: 821-827
http://www.oups.ac.jp/kenkyu/kenkyuushitu/yakuhinbunseki.html
http://www.oups.ac.jp/gakujutsu/koryuworking/index.html