研究課題/領域番号 |
16K16220
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平尾 聡秀 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (90598210)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ニホンジカ / 森林生態系 / リタ―分解 / 機能形質 / 土壌微生物 / ホームフィールド・アドバンテージ効果 / 局所適応 |
研究実績の概要 |
近年、シカ類の植食圧による植生衰退のため、植物リターの分解に関わる腐食連鎖が損なわれ、森林の物質循環に影響が生じると懸念されている。リター分解では、局所適応した土壌微生物との組み合わせによって、最適な分解が行われるという現象が報告されており、シカ食害はリター-土壌微生物間の相互作用を破壊し、リター分解プロセスに不可逆的な変化をもたらす可能性がある。そこで、本研究では、リターの形質と土壌微生物の機能の関係を考慮することによって、植生衰退がリター-土壌微生物間の相互作用の変化を通じてリター分解プロセスに及ぼす影響を解明することを目的とする。 平成28年度は、リター分解の局所適応の実験検証に向け、リターの形質と土壌微生物の機能の事前評価を行った。東京大学秩父演習林の冷温帯林において、標高別に設置されたシカ排除柵内外に実験区(シカ排除区・対照区)を設置し、上層木と下層植生を調査した。そして、落葉期に樹木種からリターを採取して、CN・全糖・リグニン・セルロース・フェノール類を分析し、リターの形質を表す指標とした。また、各実験区のリターを埋設予定地のA層土壌を採取して、これらを混合した土壌からゲノムDNAを抽出し、菌類のrDNA ITS領域と細菌類の16S rRNA遺伝子を対象としたアンプリコン解析を行った。そして、菌類・細菌類の分子系統樹を構築し、祖先形質復元によって未知の分類群に特定の機能が存在する確率を推定し、微生物相全体の機能推定法を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、(1)シカ排除柵内外の植物種について、リターの化学組成を分析し、形質を評価するための基礎データを得ること、(2)土壌微生物(菌類・細菌類)の分子系統樹と既知の機能から、全体の機能を推定する手法を検討することを計画しており、これらはおおむね順調に進展しているといえる。ただ、リターを採集・分析できなかった植物種も多くあり、これらについては平成29年度に継続してデータを取得する予定である。また、菌類は細菌類よりゲノム情報が少ないため、十分な機能推定ができない可能性が当初から想定されており、実際にそのような結果となったため、菌類については機能群情報を利用して、菌類相全体の機能推定を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、シカ排除柵内外のリターを相互に移植することによって、本来のリター-土壌微生物の組み合わせに比べて、本来とは異なるリター-土壌微生物の組み合わせにおいてリター分解速度が低下する、ホームフィールド・アドバンテージ効果(HFA効果)を検証する。その際に、リターの形質の変化がHFA効果に及ぼす影響と土壌微生物の機能の変化がHFA効果に及ぼす影響を分離するため、経時変化を分析する必要がある。そのため、リターの形質を制御したリターバッグを多く用意する必要があり、この作業に時間がかかる場合には野外実験の開始を遅らせることで対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に計上していたコンピューターの仕様を変更したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の実験に必要な消耗品費に充てて使用する計画である。
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