研究課題/領域番号 |
16K16233
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
稲葉 知大 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 環境管理研究部門, 研究員 (90760439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオフィルム / バイオファウリング / 水処理再生 / 膜分離活性汚泥法 / MBR |
研究実績の概要 |
本研究では水処理膜の完全性と微生物の関係を明らかにすることを目指している。近年の水資源の減少は地球規模で深刻であり、廃水の処理再生は水資源の持続的利用の命題となっている。そこで注目されるのが膜ろ過技術だが、膜ろ過では膜閉塞が最も深刻な問題となっている。この膜閉塞の主な原因の一つとされるのが、膜表面での微生物の増殖(バイオフィルム形成)であり、膜へのバイオフィルム形成によって処理効率や膜完全性の低下が引き起こされると考えられている。水処理膜上へのバイオフィルム形成機構には広く受け入れられているモデルが提唱されているが、実際にそのモデルに沿ったバイオフィルム形成が起こっているかについては、技術的な理由から実証されていなかった。 当該年度は水処理膜上のバイオフィルムを非破壊的に可視化・定量する技術の確率を目指して研究を行った。水処理再生の中核的技術である、膜分離活性汚泥法(MBR)と逆浸透膜(RO)ろ過を組み合わせたMBR-ROシステムの前段における、MBRの膜閉塞について可視化を試みた。可視化には物体の反射光をシグナルとすることで非破壊観察を可能にする共焦点反射顕微鏡法をベースとした独自の技術を適用・最適化した。その結果、濾過膜閉塞の進行状況を、膜の表面構造に加えバイオフィルムの構造と体積から定性的かつ定量的に解析することに成功し、提唱されているモデルとは異なる機構で膜閉塞が発生する事象を発見した。次年度にはRO上に形成されたバイオフィルムについても、可視化による膜閉塞課程の解析を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MBR-ROシステムにおける後段処理であるRO膜の閉塞にについては解析が遅れており、MBRの膜閉塞についても詳細な立体構造解析と定量には至らなかった。しかしながら、初年度の計画通りバイオフィルムおよび処理膜の非破壊的可視化・定量には一部成功した。さらに、次年度に予定していた微生物解析について一部の解析を既に始めている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の成果により非破壊的な可視化により膜上で実際に形成されるバイオフィルムの構造が明らかになったため、次年度はさらに詳細な構造解析を目指す。またRO膜については可視化解析に至っていないため、次年度はRO膜上バイオフィルムの可視化・定量解析を行う。一方で、膜上バイオフィルムをより詳細に理解するためには,バイオフィルム形成を主導的に行う微生物(群)を系統学的に同定する必要がある。そこで今年度は当初の計画に従い、次世代シークエンサーによる大規模遺伝子解析技術を用いた微生物解析を行う。この解析が順調に進んだ場合、水処理膜上のバイオフィルム形成に主犯的役割を担う微生物(群)を分離培養し、詳細な解析を行うことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
バイオフィルムの詳細な構造解析と定量のため、解析用ワークステーションおよび解析に必須なソフトウェアの購入費用を平成 28 年度に計上した。しかし、当該年度は可視化技術の確立に注力し、簡易な解析を行うにとどまったためにワークステーションおよび解析用ソフトウェアを使用した解析フェーズに到達しなかった。そのため解析用ワークステーションおよび解析に必須なソフトウェアの購入を控えたことで次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成 28 年度実績において、膜閉塞に関与するバイオフィルムの可視化・定量に一部成功していることから、次年度はさらなる詳細な解析を行うため、平成 28 年度に購入を控えた解析用ワークステーションおよび解析に必須なソフトウェアの購入を検討している。
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